(いい加減にしてよ……)

 祈るような気持ちで、紫織はふたりを交互に見比べた。

「――もういい!」

 吐き捨てるように言い放ったのは朋也だった。

「その代わり、人を馬鹿にしやがった罰として俺と紫織を学校まで送れ!」

 朋也がビシッと指を指した先には、宏樹の車が置かれている。

「ああ、それは無理」

 朋也の命令に対し、宏樹はけんもほろろに断った。

「お前達を送っていたら俺が仕事に遅れちまうだろうが。それに紫織はともかく、朋也は充分に体力がありあまってるんだからな。よく言うだろ? 『子供は風の子、大人は火の子』ってね」

「またガキ扱いしやがって……!」

「俺から見たらまだまだ子供だ。ほら、とっとと行かないとほんとに遅刻しちまうぞ?」

「チックショー……。あとで憶えてやがれ!」

 朋也はまだ言い足りなさそうにしていたが、諦めたように背中を向けた。
 もの凄い大股で歩いて行き、一気に距離を広げてゆく。

「あ、宏樹君。私もそろそろ……」

 言いながら、紫織も朋也を追う姿勢を見せた。

「ああ、気を付けてな」

「うん! 行って来まーす!」

 小走りをしながら、宏樹に手を振り続ける。

「おーい! 慌て過ぎて転ぶなよっ?」

 背中越しに、宏樹の声がこだましていた。