もちろん、言うまでもないことだけど、ビニール傘自体は珍しくもなんともない。コンビニでも、100均でも、どこでも買える。


今朝も、相変わらずの梅雨空だった。

混雑した駅の改札を出て目に飛び込んでくるのは、無数の傘がうごめく景色。皆ぞろぞろと、同じ方向に向かって歩いていく。

数メートル前方に、井原さんの後ろ姿も見えた。やっぱり、今日もビニール傘だった。


勘違いされると困るから先に断っておくと、僕は決して、井原さんの後をつけているわけではない。こんなこと、わざわざ言うのも逆に怪しいのかもしれないけど、変な誤解が生まれでもしたら大変だ。


たまたま、朝乗ってくる電車が同じなのだ。同じ時間、そして、同じ車両。僕は入学した頃からずっと同じ車両、同じドアの位置から電車に乗っている。席が空いてれば座るし、空いてなければドア横あたりに適当にもたれかかる。


僕が乗ってから3駅目で、井原さんは姿を現す。井原さんも、おそらく乗る位置を決めているんだろう。

というか、僕や井原さんに限らず、朝の電車の顔ぶれはなんとなく同じだ。同じ制服を着ていればなおさら、他の生徒もなんとなく覚える。

顔に限った話じゃなくて、パンパンに膨らんだ部活指定のカバンとか、リュックにぶら下がっているぬいぐるみみたいなパスケースとか。朝目に映る風景は、大体同じだ。