「美玖〜帰ろう〜」


僕がもたもたと考えている間に、隣の下駄箱から、井原さんの友達らしき女子数人が姿を見せた。「はーい」と井原さんは呼びかけに答え、一度振り返って「じゃあまた明日ね」と僕に向かってにこりと笑った。


うん、だか、ああ、だかよく分からない言葉を発しそうで発せなかった僕は、そのままぼんやりと井原さんの後ろ姿を見つめた。


梅雨時期は、傘立てが大混雑だ。もちろん今日も、出入り口の脇に並んでいる傘立てには無数の傘が刺さっている。

その色とりどりの傘の中から、井原さんは特に迷うことなく、1本の傘をすっと抜き取った。