「ねえねえ、リュックの中びしょびしょになっちゃうよ」

「待って、本当に開いてるの?」


からかわれていることすら、なんだか楽しくて。僕は、気付かれない程度に少しずつ歩調をゆるめていく。でも、勘の良い井原さんにはそれもバレてしまうかもしれない。

ーーーーそれならそれで、いいや。


井原さんが言ったように、降り注ぐ雨が心を洗っていくような気持ちにはなった。混乱して、散らかっていた想いが、雨によって整然と流されていく。でも流されてどこかへ行ってしまうわけではなくて、あるべき場所に辿り着く。

僕の中で、あるひとつの感情に、確かな輪郭が見え始めていた。僕はもう、そのことを無視できなくなっていた。


「…自然の脅威って、怖いな」

ぽつりと呟いた僕の独り言を、「偉大でしょ」と井原さんは得意げに笑いながら拾ってくれた。







【おしまい】