でも、つまり今僕は、井原さんと同じ目線で、同じ景色を見ているということだ。井原さんが、世界で一番好きな景色。

透明な傘に伝う雨。ランダムな筋を描いて、足元へと落ちていく。雨が止まない限り、その流れは永遠に続いていく。

隣に並んで同じ景色を見ていたとしても、きっと感じ方は全然違うんだろう。実際、目の前の濡れたビニール傘を見ても、井原さんと同じように僕の心が打たれることはなかった。

でも、それでもよかった。

横にいるだけで、なんだかとても満たされた気持ちになったから。

もちろん、緊張もしているけれど。



2人で1つの傘は、やっぱり少し狭かった。

あまり近づきすぎると、内心のパニックが表面化してしまいそうだったから、僕は歩きながら、数ミリずつ左隣の井原さんと距離を開けている。気付かれない程度に。だからそれに比例して、湿っていく右肩の範囲が広がっていく。