ぽつり、ぽつり、と雫が落ちる間隔が狭まっている。井原さんも、雨が降ってきたことに気付いたようだった。でも、このくらいじゃ井原さんは物足りないんだろう。


「…大した理由じゃなくてごめんね」

さっきまであんなに嬉しそうだったのに、井原さんは力なく笑った。僕は勢いよく首を振った。


「そんなことない」

「なんか、熱弁しちゃった…恥ずかしいな」


ビニール傘に込められた思いの丈を語ったと思ったら、急に減る口数。沈黙の中に、雨の音が小さく響く。

俯きがちの井原さんに、かけたい言葉はたくさんあるはずだった。でも、正直溢れすぎていた。キャパオーバー状態だった。こんな気持ちになるのは、初めてだった。


「すごく……良いことだと思うよ」

「…ほんとに?無理しなくていいよ」

「無理してない」


いつになくはっきりとした物言いに、自分で驚く。井原さんも驚いた顔で、僕をまっすぐに見つめた。思わず目を逸らしたくなったけれど、今それをやっては駄目だと思った。

井原さんは、今まで誰にも言ってこなかったことを、言わば自分だけの秘密を、僕に打ち明けてくれたんだ。その誠実さを、裏切るようなことはしたくない。


それに僕は、本当に凄いと思ったんだ。