すっかり考え込んでしまった僕を見て、井原さんは、ふふふふと笑いながら、持っているビニール傘をぱっと広げた。でも、今雨は降っていない。


「雨が降っていることも、必須条件なの」

「必須条件…」

「小雨程度じゃなくて、しっかり降ってくれたほうがなお嬉しいかな」

ますます分からない。


「ごめん、分かんないな…ギブアップ」

「そっかー」


後ろから追い越してきた男子数人が、横を通り過ぎながら、ちらりと井原さんに目をやった。同時に、空を見上げたり、手のひらを上に向けたりしている。

おそらく、何で雨が降っていないのに傘を差しているんだろう、もしくは、雨がまた降ってきたんだろうか、そんな風に思っているんだろう。


今はたまたま後ろにも人がいて、追い抜かれたけれど、今日の通学路は運良く閑散としていた。少し、ほっとする。もしクラスメイトや顔見知りに今の状況を目撃されたら、何と言われるか。

あくまで井原さんは、僕の引率者だ。人が周りにいなくても、改めてそこは強調しておく。