「…ビニール傘」

「ん?」

「何で、いつもビニール傘なの」

「………えっ」


振り返った井原さんの顔には、まさに、きょとんと書いてあった。きょとんの正解のような表情だった。

でも、だからこそ僕は、しまった、とすでに後悔し始めていた。

やっぱり、こんなこと聞くんじゃなかった。特別な理由なんて、きっと存在しないのだ。コスパがいいから。傘を差していても前がよく見えるから。理由があったとしても、きっとそれくらいだろう。


大体、よくよく考えてみれば、とても失礼な質問のような気がしてきた。何でそんな安っぽい傘を毎日使ってるの。そんな風に受け取られてしまってもおかしくない。もちろん僕からしたら、そういう意味は一切含んでない。ただ、他に理由があるのなら知りたいというだけだ。悪意なんてない。単純で、純粋だ。

ああ…これじゃまた堂々巡りだ。本人を目の前にしても、また僕は同じことをぐるぐると考えている。


「…びっくりした」


きょとんとして、目を丸くしていた井原さんの顔が、少しずつほどけていく。

僕の気のせいじゃなければ、それはどんどん嬉しい表情へと変化していった。笑っている。ひとまず、井原さんが気を悪くはしていないことに、僕はほっとした。