「河野って美化委員だよね?」


校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下の掃除当番を終えて教室へ戻ってくるやいなや、同じクラスの男子にちりとりを差し出された。プラスチック製のそのちりとりには、ゴミが乗る面に大胆にヒビが入ってしまっていた。


「うん。ああ…すごいヒビの入り方だね」

「前から端っこのほうがひび割れてたんだけど、ついにこんなんなっちゃったよ。これ、新しいのに替えたほうがいいよな?」

「だね」

そうか、それも美化委員の仕事なのか。なんとなく仕事が少なさそうだからという理由で美化委員に立候補した自分が、いかにぼんやりしているかということを改めて自覚する。

月に1回行われる委員会の集まりが終わった後に、教室にある清掃用具の点検をするのが美化委員の主な仕事だ。ただそれ以外にも、このちりとりのように使い物にならなくなった清掃用具の交換だったり、細かい仕事が他にもあったような気がする。


「今日の掃除は…もう済んだ?ちりとり使う?」

「いや、今日はとりあえずベランダ用のちりとり使った。明日までに新しいのに替えてもらえると助かる」

「わかった」

といかにも美化委員らしく返事をしながらも、自分が清掃用具の交換の仕方を知らないことに気付く。

さてどうするかな、と教室を見回したところで、あまりにもタイミングよく井原さんがこっちに向かってすたすたと歩いてきた。その視線の先は、僕が受け取ったちりとりだった。このちりとりをめぐる一部始終を、もしかしたら見ていたのかもしれない。