今、傘の下で井原さんは、雨が好きな理由を話しているんだろうか。もしかしたらそれは、ビニール傘を使い続けていることと何か関係があるんじゃないだろうか。止めたはずの思考が、また走り出す。


それにしても、井原さんの友達の言う通りだ。雨が降って良いことなんて1つもないはずなのに。

傘という余計な荷物は増えるし、傘を差していても足元やリュックは濡れるし、雨でも気温が高ければじめじめと蒸し暑い日もある。空が暗いとそれだけで心が沈む。


雨が好きだという井原さんの声は、人が本当に好きなものを語る時のトーンだった。


理解しがたい感覚だからこそ、逆に知りたくなる。

知らなかったことを知る、それはすごく面白いことだと僕は思う。未知の世界を覗き見るような、新鮮さと緊張感。

いや、でも、それならもう少し本業の勉強のほうにも意欲を見せてもいいはずか。それとこれとはまた別と言うか何と言うか。


もごもごと心の中でつぶやいているうちに、いつの間にか学校に到着していた。

あまり考え過ぎると、教室の中でも無意識のうちに井原さんを目で追ってしまいそうだ。それはよくない。

広げた傘についた水滴を払うように、僕は軽く頭を振った。心を、一旦落ち着けよう。