数日後の喫茶室・ジョリン。

「ねぇ!今夜、古都(こと)行かない?ユリの歓迎会!」

 終業。3人は居酒屋・古都へ行く。会社の近くの居酒屋。社員の行きつけ、溜まり場だった。老舗旅館のような内装。女将さんも綺麗な人だった。

 テーブルには3つのビールのジョッキ。

「かんぱーい!」

 初めて古都に百合と来る葵達。葵は心配してくれた。

「ユリってお酒強い?弱い?」
「たしなむ程度なら…。」
「じゃあ、たまには来よ!」

 葵も舞も、いつもの笑顔だった。嬉しいと感じる百合。

「そういえば葵、彼と仲直りしたの?」
「今日はユリの歓迎会!」
「いいじゃない、親睦を深めるってことで。」
「えー…、うーん…なんだろうなー…仲直りしたのかしてないのか…。いつもこんな感じが続いてて、これからどうなるんだろ。」

 葵はビールを飲む。

「葵ね、3年間付き合ってるの。今の彼。」
「はい…。」

 恋愛の話をする、聞く。百合は初めての体験だった。緊張をほぐせますようにとビールを飲む。

「舞は?あれからどうなの?」
「なんにもない。私もどうしよう?」

 勇気を出して、百合も会話に入った。

「何が、どうしようなんですか…?」

 ビールを飲んでいた舞は困った顔をして答える。

「私は別れたばっかりなの。今はフリー。今、合コンってどうなの?」
「そのへん、香が詳しいんじゃない?聞いてみれば?」
「じゃあ一応聞いてみようかなー。」

 葵と舞、2人とも百合に目線がいく。

「ユリは?付き合ってる人いるの?」

 百合は顔を真っ赤にする。

「え?いるの?」
「どんな人??」

 真っ赤な顔をしたまま、精一杯の力で百合は答える。

「す、好きな人が、います…。」

 考える葵。

「ってことは、付き合ってはいないってこと?」

 百合はゆっくり頷く。さらに葵は聞く。

「もしかして片想い?」
「いーなー!今一番いい時じゃーん。」
「はい…?」
「だって、片想いって一喜一憂。ちょっとしたことで嬉しくなったり、ちょっとしたことで傷ついたり…。ユリ、今そんな感じでしょ?」
「んー…。」
「やっぱりー!いーなー!」

 話の理解に困る百合。2人のテンションとその場の勢いで言ってしまった。

「は、初恋なんです!」

 2人も航と同じ反応だった。

「はぁ?!」
「初恋…。」
「ほんと…?」

 百合に緊張が戻ってくる。

「ほんとです…。だから、どうしたらいいか、わからなくて…。」

 百合は小さく震えていた。それを見た葵と舞は百合に優しかった。

「そっか、じゃあ今つらいね。」
「その人と会ってる?」

 緊張に堪え、百合は答える。

「まだ、2回しか会ったことありません…。」
「連絡は?」
「ラインなら、なんとか…。」

 葵と舞の作戦会議が始まる。

「これからどうしよっか…。舞ならどうする?」
「私なら…とりあえず会う!会いたい!会ってその人のこと沢山知りたい!」
「相手からは?誘ってこない?」

 百合は首を横に振る。まだ百合は震えている。

「じゃあ、こっちから動くしかない…。」
「ユリ、その人に会いたいと思わない?」

 航と最後に会ってからまだ間もない。会いたいと思っていいのかさえ、百合にはわからなかった。でも舞に聞かれて気づいた。

「できるなら、会いたい…。」
「じゃあ、会おう!」

 葵が即答した。舞も言う。

「会おう!だって会いたいんでしょ?」

 百合は素直に言う。

「会いたいって、思っていいんですか…?」
「当たり前じゃない!好きな人と会いたいのは当然のこと!ね?葵?。」
「そう!それから…、ユリの場合、少しずつでいいから、もっと自分に素直になっていいんじゃない?」

 もっと2人は百合に優しかった。百合の緊張は止まらない。止まらないが、2人に打ち明けてどこかすっきりした百合。話してよかったと百合は思った。背中を押され、前に進められそうな気さえした。初恋の話、それができたことは百合の中ではとても大きなことだった。

「ユリ、その人のこと、ほんとに好きなんだね。」
「ユリの恋愛成就のために乾杯しよ!」