百合の体が航に染まった。

 航はすぐに百合の頬に柔らかく手を添え、柔らかく言った。

「大丈夫か…?」
「…はい…。」

 百合は息と一緒に返事をする。それが精一杯だった。息が苦しい。胸が苦しい。体を動かせない。そんな百合の足を航はゆっくり動かし、布団を百合の体にふんわりかけた。航は百合の頭をなで、ふたりは見つめ合う。まだ息が苦しいふたり。

「航さん…。」
「なんだ…?」
「私…。」
「どうかしたか…?」
「航さん…と…?」
「オレと…?」
「ひとつ…?つながった…の…?」

 航は息を整えながら答える。

「そうだ…そうだろ…?そう感じただろ?」
「はい…。」

 百合は航の胸の中。今にも溶けてしまいそうな小さな声。

「航さん…。」
「なんだ…?」
「嬉し…。ありがとう…。」
「泣くな…バカ…。」

 航の手で包まれる、百合の髪と肩。胸の苦しさと涙の苦しさで、百合は心が満ちる。百合は航の肌を肌で感じる。鼓動を感じる。航を感じた。

 しばらく百合は夢心地。航に包まれ、ぽーっとする。

「泣きやんだか?」
「はい…。」
「落ち着いたか?」
「はい…。」

 航は百合のおでこにキスをし、頬にキスをする。そして体をくすぐり、百合は笑う。ふたりは笑顔で抱き合った。笑顔でじゃれあうふたり。無邪気な笑顔。何の濁りもない愛がそこにあった。

 その途中。航は百合に見せた、艶のある目。

「…いいか…?」

 航からのサイン。

「…はい…。」

 再びふたりは熱いキスをする。ひとつにつながる。そしてじゃれあった。それを繰り返す。ベッドの上だけ時間が止まっていた。

 航の唇は百合の首。百合から囁き声。無意識だった。

「わたる…。」

 航の動きがピタッと止まる。

「何だよ、今の。」
「え?何ですか?」
「ずるい。」
「え??」

 航は百合の髪をくしゃくしゃっとする。

「何するんですか航さん!」
「覚悟しろよ。」
「え??」

 じゃれあう姿、愛しあう姿は、とてもきれいだった。

「あ、航さんにプレゼントがあるんです。」
「何だよ、もうなんもいらねーぞ。」
「ちょっと待っててください。あ…せめて下着…。あれ?下着…どこ…。」
「これか?」

 航は百合の下着を指にぶらさげていた。

「ちょっ…返してください!」

 航はわざと百合から遠ざける。

「取ってみろよ。」

 笑う航に必死な百合。

「航さん!」

 下着を取り返し、着けてクローゼットに向かう百合。その後ろ姿もとてもきれいだった。航は呼ぶ。

「百合。」

 百合は振り返る。

「え?」
「きれいだ。」

 航からのストレートな言葉。百合は目を大きくしたまま、心も体も停止する。

「プレゼント、早く持ってこい。」
「は、はい!」

 百合が持ってきたのは大きな紙袋。ベッドに上がり、百合は航に渡す。

「出してみてください。」

 中身は枕だった。インテリアショップで買ったもの。スモーキーピンク色で、とても肌触りがいい。枕カバーの四方にはフリル。サイドコーナーには大きなサテンのリボン。

「枕?すげーひらひらしてる。」
「航さん用の枕です。」
「は?!こんなの使わねぇよ!」
「女の子らしいものって言ってたじゃないですか。」
「それはオレじゃない、あんただ。そっちのあんたの白いの貸せ。」
「嫌です。そのかわいいのが航さんのです。」
「いいから貸せ。」
「嫌です!」

 百合が枕を引っ張った反動で、百合の目の前に航の顔。百合は枕をそっと置く。

「キスして、いいですか?」
「してくれ。」
「何回…していいですか?」
「何回してくれるんだ?」
「何回でもしたい…。」
「じゃあ何回でもしてくれ。」
「はい…。」

 キスからの旅は終わらない。