あまりの美味しさに一気に食べ切りそうになり、ハッとした大吉は、ひと切れを残してナイフとフォークを置いた。
左門は自身の食事を終えている。
赤ワインだけを優雅に楽しみつつ、「どうした?」と大吉に聞いた。
「もったいないので、これは最後に食べます。まだ今のライスカレーがあるので」
「最後をビフテキで締めるのか。ならば、こっちはいつ食べるのだ?」
まだ触れていない釣鐘がひとつある。
左門が腰を浮かせて開けると、冷気がふわりと漂った。
銀の深鉢に砕いた氷と塩が入れられており、その中央にはなんと、ガラスの器に盛られたアイスクリームがある。
中江一家に振る舞ったものと全く同じで、バナナと薄焼きの洋菓子も添えられていた。
「アイスクリーム! これも僕に……?」
「もちろんだ。釣鐘を外してしまったからな。溶けないうちに食べるが良い」
感激の中でガラスの器を氷から取り出した大吉は、目の前に置いてうっとりと眺める。
まるで憧れの女性にやっと出会えたような心持ちである。
「いただきます」
胸を高鳴らせて味わえば、ひと口目で夢の世界へ運ばれた。
(これがアイスクリーム。なんて魅惑的な甘味なんだ……)
滑らかで冷たく優しい甘味は、舌を喜ばせるとすぐに喉の奥へ流れて消えてしまうので、急いで次のひと匙を口に運び入れる。
せっせと手を動かしながら大吉の頭には、函館で有名なカフェーの人気女給の顔が浮かんでいた。
歓楽街の道端で見かけて声をかけると、ちょっとだけ微笑んで喜ばせてくれるけれど、すぐに先へ行ってしまう。だから追いかけて話しかけるのに忙しい。スプーンを動かしている、この手のように。
(アイスクリームはまるで、美人のお姉さんのようだ……)
魅惑の甘味をたちまち食べ終えて残念に思う大吉だが、まだバナナがある。
初めてのバナナにも感動し、ひと房を独り占めした弟への恨みは、綺麗さっぱり消え去った。
幸せの吐息を漏らした大吉は、左門の心遣いに感謝して、冷たい人だと思っていた今までの印象をガラリと変えた。
「柘植さんの言った通り、左門さんは優しいお人でした。僕はあなたを尊敬します」
素直な敬意を示せば、左門に呆れられる。
「君は単純だな。少しご馳走してやっただけで、簡単に懐くのか。そんなことでは悪人に利用され、損をするぞ。気をつけたまえ」
「そういう人もいるかもしれませんが、左門さんは違いますよ。中江さん家族を救ったじゃありませんか。あれは清らかな優しさでしょう」
中江一家は帰り際に、左門にいたく感謝していた。
松太郎はせめてもの罪滅ぼしにと、スエと再婚して最後までしっかり面倒を見ると言っていたし、息子の正一郎は心底ホッとした様子であった。
君枝も子供らも家族が増えることを喜んでおり、スエの今後は今までよりずっと幸せなものになるだろう。
全ては左門の功労で、彼にとってはなんの得にもならないことである。
それを優しさと呼ばず、なんと言い表せばいいのかわからない。
ライスカレー用のスプーンを手に取った大吉が、半量になったご飯を整えつつ、「優しいです」と念押しするように言えば、左門に顔をしかめられた。
褒められて嫌そうにするとは、どうしてなのか。
左門は上着のポケットから黒革の手帳を取り出した。
その間にあった名刺を指先に挟み、大吉に見えるようにテーブルに置く。
それには中江正一郎の名が書かれており、『函館運輸局、海運政策課、主幹』と役所での肩書が記されていた。
割と偉い役職についているのかと思うだけで、なにに注目すべきかわからず、大吉が首を傾げれば、左門がニタリと悪人のような笑い方をする。
「海運業を始めたいと考えているのだが、函館と小樽に有力な業者が三社あってな。航路と港の使用権はほぼ独占状態だ。役所もそれを許しており、新規が参入するのは難しい」
そう言った左門がスラリと長い人差し指で、名刺の海運政策課の文字をつついた。
それ以上は言わないが、便宜を図ってもらうつもりだと、その悪そうな笑みが語っている。
スエを助けたのは、息子である正一郎に恩を売るためであり、清らかな優しさではなかったと言いたいらしい。
「海運業ですか……」
浪漫亭の経営以外にも、なにかをやっているとは聞いていたが、海運業とは随分と大金が動きそうなものに着目したものだ。
成功すれば大富豪になれそうだが、リスクも大きいだろう。
もしかすると思っていたよりもっと凄い人なのかもしれないと、大吉は漠然と考えていた。
そこに興奮がないのは、話の規模が大きすぎて、うまく想像できないからである。
左門は海運業について大吉に講釈を垂れるつもりはないようで、言いたいことを簡潔にまとめて締めた。
「真の実業家に優しい人間などいない。優しいと言われて喜ぶ者もな。覚えておきたまえ」
「はぁ、そうなんですか」
本人が言うのならと、左門への認識を再度改め、したたか者とでもすることにした大吉は、話しながらもせっせとスプーンを動かしている。
今のレシピで作られたカレーソースは、まだ皿に注いでいない。
なにをしているのかといえば、ご飯で函館の地形を作っていた。
渡島半島の南東に、根元がへこんだコブのように突き出ているのが函館で、三方を海に囲まれている。
函館山も形作ってから、カレーソースを海に見立てて流し入れ、大吉は満足げな顔で左門に披露する。
「名付けて函館カレーです。どうですか、面白いでしょう」
くだらないと一笑に付される可能性も考えていたが、今日の左門は機嫌がいいようだ。
馬鹿にすることなく微笑して、大吉のフォークを手に取ると、残してあった最後のビフテキのひと切れを函館山の斜面に置いた。
「索道のゴンドラだ。ロープウェイとも言う。いずれ函館山に作るつもりだ」
山頂に展望台を建設し、麓からそこまでを索道で繋ぐ。
観光都市としても函館を発展させたいと、左門は夢を口にした。
大吉相手にそこまで話してくれるのは、ワインで酔っているせいなのかもしれないが、一人前の男とみなされた気がして大吉は得意になる。
「観光業ですか、面白そうですね。そうだ、卒業したら、僕を左門さんの会社で雇ってくれませんか?」
まだまだ事業を拡大しようとしている左門は、ひょっとするとこの先、函館一の実業家になるかもしれない。
左門の下で働けば、たくさん給料をもらえて、カフェー通いができる紳士になれるのではないだろうか。
そのような夢を描いた大吉であったが、急に真顔に戻った左門が前髪を指先で払い、冷たいことを言う。
「私は能力主義なのだよ」
「僕が馬鹿だと言うんですか!?」
「今はな。ビフテキとアイスクリームで尻尾を振る男は、レストランの下働きがちょうど良い。私と仕事をしたければ、賢くなることだ」
(左門さんに比べたら、そりゃあ色々と能力不足だとは思うけど、僕はまだ発展途上の子供だぞ。これからどんどん賢くなるはずなんだ)
左門はワインを継ぎ足して、グラスの中で揺すり、香りを嗅いでいる。
いつか認めさせてやりたいと思う大吉は、腹立たし気に函館山の斜面を崩し、ライスカレーとビフテキを勇んで食べるのであった。
七月に入り、北の都には気持ちのいい夏空が広がっている。
授業が終わった大吉は、意気揚々と繁華街の通りを歩いていた。
履いているのは下駄ではなく新品の黒い革靴で、斜めがけしているズック鞄も買い直したばかりの真新しいものだ。
それらを手に入れることができたのは、先日、六月分の給料が左門から支払われたためである。
その額は十五円。
日雇い人夫が得られるのは、高くても一日に一円五十銭程度であろうか。
未成年男子や女性なら、せいぜいその半分だ。
休日は開店から閉店まで働いているが、平日は学校から帰った後の二、三時間程度なので、そう考えると浪漫亭の給料は他よりかなり高いと言えよう。
親には家賃無料で従業員宿舎に住まわせてもらっていると手紙で報告してある。
そのせいで仕送り額を減らされてしまったけれど、給料をもらっていることまでは教えていない。
仕送りに自分の稼ぎを加えたら、革靴と学生鞄、火事で失った私物を買い直してもまだ懐に余裕があった。
それを貯金しようなどという考えは大吉にはなく、目指すのはカフェーである。
(財布の中に五円を入れてきた。これだけあれば、看板女給を指名できるぞ。卒業前に大人の世界に足を踏み入れることができるんだ。どうだい、僕は大した男じゃないか!)
今日は水曜日で浪漫亭の定休日だ。
まだ午後五時と夕暮れ前だが、銀座通りに面する店々は、電飾で飾った派手な看板を掲げて、早くも夜の雰囲気を醸している。
この通り沿いにカフェーは五軒あって、大吉は迷うことなく“麗人館”と書かれた店の前で足を止めた。
そこは二階建て鉄筋コンクリートの洋館で、五軒のうち最も格式高いカフェーである。
ここに“牡丹”という名の二十二歳の看板女給がいて、大吉が今、一番夢中になっている女性であった。
道端で待ち伏せて声をかけ、直接売ってもらった彼女のブロマイドは三枚ある。
それを眺めてにやつくだけの夜はもう終わりで、金のある今日こそは店内で、牡丹に接客してもらえると意気込んでいた。
ところが、両開きの重厚なドアを開け、一歩入った途端に、黒服を着た中年の支配人に追い返されてしまう。
「またお前か。マッチひと箱を売ってくれと来るのはよしてくれ。これからどんどんお客様が入る時間なんだ。邪魔するな」
「待ってください。今日の僕はちゃんとした客です。五円使う気で来ました。牡丹さんを付けてください」
この店は席に着くだけで一円かかり、その他に大衆食堂の三倍もする飲食代と女給への高額なチップも必要だ。
女給に店からの賃金はなく、客からのチップで生計を立てているため、人気の女給ほど要求するチップの額は高くなる。
大吉の計算では、それらを引っくるめて、五円あれば楽しめるはずであった。
しかしながら、問題は金ではないらしい。
「牡丹はまだ来ていないぞ。そもそも学生服を着た子供はお断りだ。他の客になんと思われることか。大人になったら喜んで迎えてやるから、出直して来い」
肩をドンと押されて足を引いたら、目の前で手荒くドアを閉められてしまった。
学生服が問題なら、着替えてくればいいのかと、聞く暇もなかった。
(くっそー。大人になったらって、あと三年もあるじゃないか。そんなに待っていたら、牡丹さんはきっと太客に見初められて嫁にいってしまう。そうなれば彼女の接客を受けられないのに)
大吉が地団駄を踏んで悔しがっていると、笑い声がした。
振り返れば、隣の建物との隙間から、級友の清と幸治が出てきた。
いつもは彼らと一緒に下校する大吉だが、今日はカフェーに寄るという話を得意げにして、ひとりでここまで来たのだ。
まさか後をつけられていたとは思わず、『今日から僕は紳士の仲間入りだ』と自慢していただけに、入店拒否を見られたのは赤っ恥である。
級友ふたりは、大吉を挟んで肩を叩いてきた。
「やはり断られたか。そうなると思ったんだ。いやー、愉快愉快」
大笑いして言ったのは、いつも陽気で、男のくせに良く喋ると揶揄されることのある清だ。
この三人の中では一番体格が良く、力もある。
顔つきは優しげで、口を開かなければ女にもてそうな雰囲気もあった。
「だから、やめておけと言ったのにな。子供顔の大吉が入れるカフェーはないだろう」
ひょろりとした体を揺すって笑う七分刈り頭の少年は、幸治である。
彼は、良くも悪くも正直だ。
自動車が好きな幸治は、大吉が左門の高級車に乗った話をすれば、羨ましいと率直に口にする。
それゆえ大吉は、しばしば優越感に浸らせてもらえるのだが、小柄で童顔なところを一切の気遣いなくからかってもくるので、しばしば喧嘩になる。
今も大吉はムッとして、幸治に言い返した。
「顔は関係ない。学生服が問題だったんだ。今度は着替えてくるから、入れてもらえるさ!」
「大吉なら、一張羅に着替えても無理だろう。七五三だと思われそうだ」
「なんだって!?」
喧嘩になりそうなふたりの間に入った清が、「まぁまぁ」と大吉を宥める。
「大吉がレストランで働いて大金を稼いだことを、僕らは立派だと話していたんだ。だからさ、機嫌を直してミルクホールへ行こう」
「だからとは、どういうことだ? 僕は奢らないぞ」
「たかるつもりはないから安心しろよ。むしろ飲み物代くらいは僕が出そう。実はさ、親友のふたりに折り入って相談が……」
急に真顔になった清がそんなことを言いだすから、大吉と幸治は顔を見合わせた。
清の実家は函館の隣町にあり、大吉と同じように両親を説き伏せて高校に入学し、下宿生活を送っている。
もしや、退学して実家に呼び戻されるのではないかと心配したふたりだが、目を泳がせた清が「恋をしているんだ」と言うから吹き出してしまった。
「僕は真剣に悩んでいるんだ。笑わないでくれ」
顔を赤らめて抗議する清に大吉はニヤリとし、先ほどの仕返しとばかりに肩を叩いて言った。
「愉快そうな話だな。笑わない約束はできないけど、ぜひとも聞かせてもらおう。幸治もそう思うだろ?」
「もちろん相談にのるさ。僕らは親友だ。恋の悩み、上等じゃないか」
それから三人は銀座通りを外れて、庶民の商店街の一角にあるミルクホールに入った。
ミルクホールとは、学生向けの軽食を出す、安い飲食店だ。
簡素なテーブルと丸椅子が置かれた十二畳ほどの店内は賑わっていて、様々な学校の男子学生ばかりである。
まずは入口横で割烹着姿の老女に、ミルク珈琲とシベリアを三つずつ注文する。
シベリアとは羊羹をカステラで挟んだ菓子で、日本中で売られており、老若男女に人気だ。
大吉がここに来る時は大抵、一番安い豆菓子とホットミルクを買うのだが、今日は少しばかり贅沢をする。
ミルク珈琲代は、相談があるという清が払ってくれた。
紙に包まれたシベリアと珈琲碗を手にした三人は、唯一空いていたふたり用のテーブルに、他で余っていた丸椅子を持ってきて足し、顔を突き合わせるようにして話す。
「それで、恋の相手とは誰なんだ?」
大吉がワクワクして尋ねれば、清が照れ臭そうに話しだした。
「名は早川文子と言う。年はひとつ上の十八だ」
清の下宿先は親戚の家で、その隣は古めかしい四軒長屋なのだそう。
文子はその長屋に兄弟姉妹七人で暮らしており、一番年長である。
大工であった彼女の父親は数年前に足場から落下して亡くなったらしく、母親はその心労と過労から体を壊してしまい、半年ほども入院しているそうだ。
それで文子が半年前から一家の大黒柱となり、まだ四つだという幼い妹から一歳違いの弟まで、六人の弟妹を養っているという。
仕事は仕立て屋の下請けで、呉服や背広などの縫製を自宅で行なっており、日中はミシンを踏む音が清の部屋まで聴こえてくるらしい。
「随分と大変な境遇だな。昔話に出てきそうな苦労人だ」
大吉が感想を口にすれば、清が眉を下げて何度も頷いた。
それを見た幸治が、シベリアを食べる手を止め、顔をしかめて聞く。
「彼女を可哀想に思って、好きになったのか?」
恋ではなく同情なのではないかと、幸治は言いたいようだ。
すると清が首を強く横に振った。
「確かに文子さんの毎日は、大変で忙しい。できる限りの手助けをしてあげたいと思う。だけど、彼女の生活水準は決して可哀想ではない」
住まいこそおんぼろ長屋だが、文子はいつも綺麗な身なりをし、弟妹も同じだ。
食べ物に困ることもなく、母親の入院費も一度も滞納することなく支払っているという。
すぐ下の弟は函館師範学校の一年生で、真新しい自転車で通学しているそうだ。
自転車を持っているとは、貧乏どころか裕福なのではないかと思う暮らしぶりである。
それを聞いた大吉は驚くと共に感心した。
「仕立ての仕事とは、そんなに高い賃金をもらえるのか。すごいなぁ」
「いいや、普通なら家族を養えるほどの稼ぎは得られまい。おそらく文子さんの腕が、飛び抜けて良いのだろう」
「優れた技術で充分な稼ぎを得ているというわけか。清の想い人は大した女性だ」
一番先に食べ終えた幸治も、文子に感心し、そういうところに惚れたのかと清に問う。
すると清が口の端を弓なりに吊り上げ、ヒソヒソと答える。
「もちろん仕事のことは尊敬しているが、控えめで大人しい性格が好きだ。そしてなにより、美人なんだ」
「美人!」
大吉と幸治が声を大にして復唱してしまったら、周囲の見知らぬ学生達の視線が向き、慌てて声を落とす。
「美人のお姉さんが隣に住んでいるなんて、ずるいぞ」
大吉がそのように羨めば、清が嬉しそうな顔をして調子に乗る。
「美人な上に、胸も大きい」
「な、なんだと!?」
清が両手で女性の体の線を描いたら、大吉と幸治はテーブルを叩いて悔しがる。
年頃の少年らしくハレンチな話題でひとしきり盛り上がった後は、真面目な顔に戻した清がやっと悩み事を口にした。
「卒業したら文子さんに求婚したいと本気で考えている。彼女の弟妹の面倒もみるつもりだ。だがその前に、恋心を打ち明けておきたい。そうしなければ卒業前に他の男に取られてしまうかもしれないからな。それで、ふたりでどこかへ出かけたいと思うのだが、どこへ誘えばいいのか……」
結婚まで真剣に考えていると聞かされたら、もう笑うことはできない。
「逢引の相談か」と幸治が真顔で確認すれば、「それは古い言い方だ」と大吉が真面目に指摘する。
「フランス語では、ランデブーと言うらしいぞ。雑誌に書いてあった」
「そうなのか。では僕もそう言おう。文子さんとランデブーしたい。どこへ行けばいいだろう?」
相談した結果、行き先は“活動写真”とした。
それは白い布に動く写真が映し出され、弁士という職業の者が解説を加える見世物だ。
入場料は二十銭と手頃で、清でも無理なくふたり分を払えるのが良い。
函館には常設館が十三もあり、どこも賑わっていると聞く。
平日は夕方から夜までの上映で、仕事や学校終わりに観る者が多いようだ。
大吉達はミルクホールを出ると、音羽館という大きな劇場に向かった。
収容人数はなんと、千四百人。
そこで前売りの入場券を二枚買い、今度は文子の住む長屋へ行く。
「君たちはもう、ついてこなくていいぞ」と清に言われたが、大吉と幸治は頷かない。
「どうなるか、結果を見届けねば」
「もし文子さんが断るようなら、僕らが説得しよう。親友だからな」
清を心配しているようにも聞こえるが、実のところ文子に会ってみたいという興味の方が大きい。
美人で豊かな胸をしていると聞かされたら、そうなるのは仕方ないだろう。
長屋に着いた頃には、日は随分と西へ傾いて空が茜色である。