死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。

 穂稀先生はいい先生だ。俺はあの人を信頼していた。いつも俺のことをよく考えてくれているから。医者は患者を助けるのが仕事なのに、俺が手術をしたくないって言ってもダメと言わなかったし、フランスに行くのも許してくれた。そんな人が息子に虐待しているなんて考えたくなかった。でも、そう考えないとあの痣の説明がつかない。
 ……本当に俺は最低だ。あいつが虐待されていると知ったくせに、助けないといけないと思うくせに逃げてるんだから。
 ……俺ではダメなんだよ。
 俺といたら最悪、親戚はあづを殺すかもしれない。姉を殺した分際で、楽しそうにしてんじゃねぇと俺に婉曲《えんきょく》に伝えるために。
 俺を殺した場合は疑われるが、俺でなければ、あいつらが疑われることはないんだ。……それならこれでいいだろ。一緒にいたら虐待のことが解決する前に殺されるかもしれないんだろ? それならこれが最善だろ! そう思うのに、涙は一向に止まらなかった。
「うっ、うっ、ゲホッ、ゲホっ!」
 近くにあった公園のトイレに駆け込んで、泣きながら吐いた。
「うっ、うっ、うあっ、ああぁぁあああああぁ!!」
 絶叫。叫んでも叫んでも気が晴れない気がした。それでも、もう今度こそ終わりだ何もかも。

 初めて会ったのは死ぬのを決めた日だった。そもそもあの日、あいつらがいる前で死のうとしたのが間違いだったんだ。
 そうだよ。
 俺は目を覚ました日に言われた通り、あづに助けられたかったんだ。
 死ぬのがどうしようもなく怖かったんだ。死ななきゃいけないとわかっていながら。
 友達が欲しかったんだ。
 あいつらといるのが、楽しかったんだ。
 全部あづの言う通りだ。あいつが言ったことは、全て当たっている。
 それでも、俺はもうあいつのそばにはいれない……。
 
  
 チェックインを済ませた俺は、空港の椅子に座って、飛行機を眺めていた。

 あづを捨てたあの日から、一週間が過ぎた。
 俺はあの後、どうにか自力で病院に戻って、フランスに行くと先生に言った。
 飛行機に乗りさえすれば、十二時間くらいでフランスに着く。きっと、もう二度と日本に帰ることはないだろうな。

「赤羽くん!」
 空港の出入り口から私服姿の穂稀先生が出てきて、駆け寄ってくる。
「先生? なんで」
 俺は慌てて立ち上がる。
「半休もらったの。見送りしたくて。間に合ってよかった」
 顔をしわくちゃにして笑って、先生は言う。
「赤羽くん、気を付けて。帰りたくなったら、いつでも帰ってきていいからね」
 俺の頭を撫でて、先生は微笑む。頭の上にあるその手を掴み、俺は作り笑いをした。
「帰りませんよ。だって俺は独りで死ぬためにフランスに行くんですから。……先生、俺が死んだら、墓参りに来てくださいね。……お世話に、なりました」
「赤羽くん、本当にそれでいいの?」
「……そうしないと、気が済まないので」
 そう言い、俺は無理矢理口角を上げて笑った。
「……先生、空我と仲良くしてやってくださいね」
 証拠もないのに、虐待を止めろなんて言えないから、そう言うだけ言った。
「……そう、ね」
 目を見開いた後、作り笑いをして先生は言った。
「赤羽くん、でも、本当にいいの?」
 そういい、先生はバックから見覚えのあるものを二つ取り出す。
 あづ達がくれたスマホと、俺の家の鍵がついたチェーンだ。
「これ、亜月くんからよ」
 俺は受け取ると、チェーンをズボンにかけ、スマホをゴミ箱に向かって放り投げる。穴が大きかったおかげか、スマホは見事ゴミ箱の中に落ちた。
「赤羽くんっ⁉ 何してるの!」
 慌てて先生はゴミ箱のそばにいった。ゴミ箱に手を伸ばす先生に言う。
「……拾わなくていいです。それ、料金払ってるの親戚じゃなくてあいつらなので。あいつらも、俺が使わなければ金払うとしても安い額で済みますし」
「赤羽くん! 本当にそれでいいの? 後悔しない?」
「俺は捨てられたんじゃない。俺があいつを捨てたんです。だから、俺が後悔する資格はないんですよ。だから、後悔なんてしません。……もう、独りで死ぬ覚悟はできてます。まぁ、少し怖いですけど」
「赤羽くん」
 眼尻を下げ、悲しそうに先生は言う。
「……先生こそ、後悔しないで下さいね。先生なりに、後悔のない育て方をしてやってください」
 先生は口をつぐむ。
 俺はお辞儀をして、飛行機の搭乗口に向かった。

 先生は、希望通り、俺をフランスの一番高い病院に入院させようとしてくれた。でも、俺がこれから入院するのは、フランスで一番安い病院だ。親戚に払わないって言われたから。   
 看護師によると、先生は親戚にその治療費が一番安い額だと抜かしたらしい。
 俺をフランス以外の国に行かせるのを、先生は頑なに拒んだようだ。――フランスは日本と同じくらい医療設備が整っている国だから。
 大方、俺が手術をしたくなった時に問題なく行えるためだ。そんなことに気を回されても、俺は心変わりなんてしないのに。
 やっぱり、何度考えても想像できない。あの人があづに虐待してるなんて。何か事情があるのだろうか。
 でも、もうそんなの俺には関係ないことだ。
 あづのことは、きっと潤達が救ってくれる。そのハズだから。

 搭乗時間十分前に手荷物検査を済ませ、俺は飛行機に乗った。
 ……もう、本当にお別れだな。
 飛行機が上昇していく様子を見ながら、そんなことを思った。
 涙はもう流さない。泣く資格なんて、俺にはないから。……絶対、流さない。

「おはよう、赤羽くん。今日は天気がいいよ」
 病室に、アビラン先生が入ってくる。
 英語でそんなことを言って、アビラン先生はベッドのそばの窓を開けた。
 アビラン先生は茶髪に細見のしなやかな体をしていて、少し吊り上がった二重の瞳をしている。
「……そうですか」
 俺は英語でそう返し、窓の外に広がる景色を見た。
 天気はうざいくらい快晴で、雲も少ない。ビル街の奥に見えるエッフェル塔が太陽で照らされている。眩しい。道路には金髪で色白な人もいれば、茶髪で褐色肌の人もいた。
 今は九月だ。フランスに来てからおよそ三年が過ぎ、日常会話程度なら英語で一通りできるようになった。
 腐りかけている体なのに、三年持った。
 果たしてそれは喜ばしいことなのか。……喜ばしくなはいか。親戚にはまだ死ねって思われているのだろうし。
 あづは今頃、どうしているのだろうか。生きているなら、もう高一か。
 楽しく高校生活謳歌してんのかな。
 ふと、あづの痣が頭を過った。
 あいつ、まだ穂希先生に殴られたりしてんのかな。
「赤羽くん? どうかしたのかい? ご飯、食べないのかい?」
 いつの間にか、サイドテーブルの上にご飯が置かれていた。用意されていたのに、全然気づかなかった。
「……食べます。先生こそ、どうしたんですか。浮かない顔して」
 俺はご飯を口に運んだ。
 それから目じりを下げている先生を見て、首を傾げる。
「赤羽くん、昨日の検査結果が出たんだけどね、その……」
 言いにくそうに、先生は顔を伏せる。
「あ、悪いんですか」
「……そうだ。君は、もって後四か月だ」
 思わず箸が止まる。
「……そう、ですか。三年持っただけでもう十分です。先生が気に病むことはありませんよ」
 三年持っただけ奇跡だ。後少ししか生きれないことくらい、どうってことない。それに、そろそろ死ぬだろうとは思っていた。一か月前、左腕が麻痺した時から。
 穂稀先生は俺を思って隠した。病気の症状は頭痛や嘔吐の他に、麻痺や意識障害もあるのに教えてくれなかった。

 あの時の俺は中一だったし、そんなこと言われたら耐えられないかもしれないと思ったから言わなかったのだろう。実際それは当たっている。俺はたぶんあの時本当のことを聞いたら、すぐに自殺していた。
 まぁそうはいっても、腕が突然動かなくなった時はびっくりしたし、何で言わなかったんだって穂稀先生に文句を言ってやりたくなったが。

 せいぜい動かせるのは指だけで、左腕は曲げようと思っても曲げられない。利き腕ではなかっただけマシなのだろうか。

 あと四か月か……。

 その間に、指や足も動かなくなったり、意識障害が起きたりして、車椅子生活を余儀なくされるんだろうな。最悪、寝たきりになったりするのだろうか。考えるだけで嫌になるな。まぁ、仕方ないが。

「赤羽くん、君が望むなら退院もできる。死ぬまでずっと病院にいても、つまらないだろうからね」
「少し、考えさせてください。風当たってきます」
 俺はベッドから降り、先生を見て言う。
「それなら、私も付き添おう」
「……いいですよ。別に腕動かなくなったって屋上くらい行けますし。それに、一人になりたいので。何かあったら連絡します」
「……わかった。無理しないでね」
「……はい」
 俺は病室を出て、屋上に向かった。

 屋上に行くと、伸びっぱなしにしてたせいで肘まで伸びた髪が、風で揺れた。
「痛っ!」
 頭痛に襲われる。俺はドアによっかかり、収まるのを待った。
「うっ」
 吐き気に襲われた俺は、慌てて屋上を出て、非常階段のそばにあったトイレに駆け込む。
 個室に入り、便器に吐瀉物をぶちまける。臭いが充満して、鼻につく。クソっ、嫌な気分だ。
「……ハッ。物思いにふける暇もねぇのかよ」
 自嘲気味に言う。
 本当に、クソみたいだな俺の人生。
「……確かに、一生このまま病院にいるのも、つまらないよな」
 吐瀉物を流した後、壁によっかかってひとりごちた。
 そうはいっても、俺の居場所なんてないし、ここにいるしかないんだけど。

〝待ってるから‼〟

 ふと、別れ際のあづの声が頭を過った。
 ……あづは今も俺を待っているのだろうか。
 たぶんあいつは、俺が本当に戻ったら、三年間連絡がなかったのも気にもしないで、笑って受け入れてくれるのだろう。そうやって、いともたやすく俺の居場所を作ってしまうんだ。その優しさと無神経さが、心底嫌になる。
「……俺だって、帰る資格があんなら今すぐ帰りたいよ」 
 事故かなんかに巻き込まれて、親戚が全員死ねばいいのに。そしたら、なにも気にしないで、笑ってあいつらと会えるのに。……そんなことを思うなんて罰当たりにもほどがあるが。

 流さないと決めたハズの涙が、あまりにあっさり流れた。

 フランスでやれる暇つぶしは何でもやった。
 図書室にあるフランス語や英語の本を辞書見ながら読んだり、同級生くらいの患者と話してみたりとか。本に関しては、図書室にあるのを大半は読んで、フランス語も単語の意味ならある程度わかるようになった。……話せるまでにはなってないけど。
 でも、そうやって目的を持って時間を過ごしても、楽しくなんかなかった。

 ……楽しかったのは、あいつらといた時だけだ。

 誰か俺に言ってくれ。ワガママで言う資格もないようなことを願っていいと。
 ……いや、誰かではない。親戚だ。親戚が、俺に謝りに来てくれたらいい。そしたら、何の後ろめたさも持たずに会えるのに。……ハッ、あほらし。そんなこと起きたら奇跡だな。一生起きねぇよそんなもん。
 体調がマシになった俺は、トイレを出て、屋上に戻った。

 風に当たってから病室に戻ると、アビラン先生がいた。
 アビラン先生は写真を手に持ち、物思いにふけっている。何の写真か気になり覗き込むと、若い穂稀先生と青い髪の男の人と、赤ん坊が映っていた。

 なんでアビラン先生がそんな写真を持っているんだ。

 ――まさか、アビラン先生が空我の父親なのか? 

〝生き写しかってくらい父親に似てるらしい〟
 かつてあづが言っていた言葉が、頭を過った。
 あづと同じ吊り上がった瞳、細身の身体。他にも、髪が茶色いこと以外は、全てあづにそっくりだ。……間違いない。この人は、あづの父親だ。正真正銘、血の繋がった。
 なんで今まで気づかなかったんだ。穂稀先生は医者なんだ。それなら、あづの本当の父親が医者でも何も不思議ではないのに。考えないようにしていたからだろうか。この三年間、俺はあづのことが頭によぎるたびに、それを無理やり振り払ってきた。そのせいで気づかなかったのか。

 ……あづ、お前は一体どこまで俺を苦しめれば気が済むんだ。三年前、俺はお前をさんざん悩んで捨てたんだぞ。それなのに、今度は父親が会いに来るのか。
 でも、ちょうどいいのかもしれない。
 俺はどうせ死ぬんだ。それなら、この父親にあづのことを頼んでしまえばいい。俺じゃあづを救えないから。俺は決めたんだ。ここで独りで死ぬって。それなら、後はこの父親に任せればいい。

「……先生は、空我の父親ですか」
 わざと日本語で言う。本当に穂稀先生の夫であづの父親なら、日本語が話せるハズだと思ったから。
「赤羽くん? 戻ってきてたのか。気づかなくてすまない」
 日本語で先生は言った。
「……質問に答えてください」
「僕は空我という名の子を知らない。穂稀がこの子を産んだ後、僕はすぐにフランスに戻ったんだ。ただ、穂稀がこの子を空我と名付けたなら、僕は確かに彼の父親だ」
 目を見開く。
「なんでフランスに戻ったんですか」
「大学生で日本に留学をしていた時、穂稀と知り合った。知り合った時、彼女はすでに他の男と結婚していた。それでも、僕は彼女に恋をして、穂稀も僕を好きになりかけていたと思う。でも穂稀は旦那を裏切れないから、もう会うのはやめにしようと言ったんだ。それで僕と穂稀は、別れる日の前日、これで最後だと思って一夜を明かした。そしたら、穂稀が妊娠してしまった。それで空我が産まれたんだ。もちろん僕は穂稀と彼を育てたかった。それでも穂稀が旦那と別れる気がないなら、僕は去るしかなかった」

 線が繋がっていく気がした。

 不倫で産まれた子供なら、確かに虐待するのかもしれない。

 自分の子でないと旦那に気づかれたくないのに、そんな気持ちとは裏腹にアビラン先生に似ていくあづを見て、ちゃんと育てるのが嫌になったのだろうか。

 産もうと決めたのは、自分だというのに。

 あづが二人暮らしだといったのは、不倫で生まれた子供なのを隠したかったからか。三人暮らしだけど、一緒に暮らしてる父親は本当の父親でないなんて言ったら、不倫を疑われて当たり前だ。

「……先生、今すぐ日本に帰って、空我に会いにいってやってください。あいつは、母親に虐待されてます。だから、今すぐに帰って、あいつを守ってやってください」

「穂稀が、虐待? そんなことするわけ……」

「してます。空我は、腕や頭。とにかく、身体中に痣があります。助けに行ってやってください」

 俺は必死で頭を下げる。

「……仮にされていたとして、君は空我の何なんだ。なんで君がそんなことを知っている?」
「……お、れは」
 声が震えた。
 俺は空我の友達などではない。友達を名乗る資格が、俺にはない。俺はあいつのなんなんだ。

「……俺は、空我の知り合いです」

「知り合いの君が、何故そんなことを知っている? 君が知り合いだと思っていても、空我はそう思ってないんじゃないか? だから君に虐待のことを話したんじゃないのかい?」
「……虐待されてるってのは俺の予測です。でも十中八九そうだと思います。……後、確かに空我は、俺を今も友達だと思っていると思います。それは否定しません。でも、俺はあと四か月で死ぬので。たかが四か月であいつを虐待から救えるとは思えません。だから先生に頼んでるんです。お願いします。あいつを助けに行ってやってください」
 俺は必死で頭を下げた。
「……それは、できない」
「は?」
「……穂稀は説得するよ。電話して、空我のことを聞いて、優しくするように言う。でも、それしかできない。僕は患者を守らなければならないからね」
「ふざけんな! 確かにアンタは医者だ。でも医者である前に、空我の父親だろ!」
 右手で先生の胸倉を思いっきり掴んで、声が枯れる勢いで叫んだ。
「……ああ、確かに僕は空我の父親だ。しかし、僕は患者を守らなければならない。僕が治療しないと助からない患者が何人もいるんだ。それを投げ出すことはできない」 
「……そいつらの代わりに空我が虐待のせいで殺されてもですか」
「それは……」
 ばつが悪そうに、先生は顔を伏せる。
「……もういいです。吐き気しますよ、心底。偽りの愛ほど残酷なものはない。貴方も、穂稀先生も最低だ。俺の親戚と同類だ」
 今の会話だけで、もう十分だ。こいつがあづを救ってくれるわけがない。

「……偽りの愛か。君が空我に向けているのも、それなんじゃないか」
「俺はッ!」
 違うとは、言えなかった。
 俺はあいつを騙したことなんて一度もない。でも、旗から見れば、そう見えるのだろうか。仲良くしたくせに、手を離して。そんなの旗から見れば裏切りで、偽りの愛なのか? 
 そうだとしたら、俺は親戚と同じことをしているのか? 手の平返しのように姉が死んだ途端冷たくされて、死ねって言われて、凄い傷ついた癖に。
 酷いことをした自覚はあった。でも、親戚と同じだなんて思いもしなかった。

 どうしたらいい。

 助けに行けばいいのか。
 でも、たかが四か月で、助けられるのか? それに、俺といたら、空我は本当に親戚に殺されるのではないか?
 嫌な予感しかしない。やっぱり俺は、あいつと一緒にいない方がいい……。
「僕は患者を助けなければならないという理由がある。でも君が空我を助けに行こうとしないのは、彼と向き合うのが怖いからじゃないか」
 胸ぐらから手を離し、顔を伏せる。
「……さい。うるさい! あんたに俺の何が分かる! どうせ身内に死ねって言われたことも、殺されかけたこともないくせに! そんなんだから、簡単にあづを助けられないって言えるんだ!」
 思いのまま叫び散らす。本当に、ムカつく。自分も助ける気がないくせに、説教してくるなんて。
「……ああ、そうかもしれないね。でも、そう言われてきた君なら、分かるんじゃないのかい。穂稀に酷い扱いを受けて、君にも傷つけられた空我の気持ちが」
「ああ、わかるよ。嫌になるくらいな! 俺が助けられんなら助けてぇよ! 一生、笑ってあいつと生きていきてぇよ! でも、俺といたら、アイツは絶対もっと不幸になる。最悪、親戚に殺されるかもしれない」
「赤羽くん、一体誰が、彼を殺すって言ったんだい」
「えっ」
「誰も言ってないのだろう。それなら、君の好きにしたらいい。もし本当に親戚が彼を殺しに来たら、君が彼を守ればいい」
「ハッ。……病人に、守れるわけないじゃないですか。腕だって動かないのに」
「じゃあ、このまま死ぬまで空我に会わなくていいと、君はそう本気で胸を張って言えるのか?」
 言えるわけがなかった。
 そんなことが言えるなら、こんな言い合いになっていない。