ジリジリと照りつける太陽は、気温をどんどん上げてくれる。こういう日は、冷たいものを食べるに限る。

「おっ、今日はかき氷か!」

「はい。イチゴとマンゴー、宇治金時の三種類ありますよ」

「じゃあ、イチゴを頼もうか」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 台所に向かうと、良夜さんがつごもりさんにお茶を手渡しているところだった。さすがだ。仕事が速い。

「イチゴのかき氷が入りました」

 良夜さんはキビキビ歩き、冷凍庫からクリスタルのように澄んでいる氷を取り出す。これは、山で採れる天然水で作った特別製のかき氷だ。これを使うと、淡雪みたいな優しい口溶けのかき氷ができる。

 良夜さんは氷をかき氷器にセットし、ハンドルを回す。このかき氷器は昔から山田家にある物で、父の幼少期時代から使っているものらしい。年季が入っているが、まだまだ現役だ。

 良夜さんが削ってくれた氷に、春に作ったイチゴシロップをたっぷり垂らす。これで終わりではない。甘酸っぱいイチゴのコンポートも添えるのだ。さらに、アイスクリームを載せたら、狛犬カフェ特製“イチゴのかき氷”の完成である。

「お待たせしました」

「おおー!」

 溝口さんは携帯電話を取り出し、パチリと撮影していた。なんでも、写真を家族との会話のネタにするらしい。

 溝口さんのお子さんはふたり。
 息子さんは東京の企業に就職したようだが、最近家を継ぐために戻ってきたようだ。上のお姉さんは、嫁ぎ先の千葉に骨を埋める気らしい。

「前に食べたパンのケーキ、だったか? あれを久々に千葉で会った娘に見せたら、食べたいって羨ましがっていてな」

「そうだったのですね」

「食べられるならば、遊びにきたいと言っていたんだがな。ここの菓子は、いつ来ても同じものが出るとは限らないからなー」

「そ、そうですね」

 言われてから、ぎくりとしてしまう。私は無意識のうちに、ここの町の人達向けのメニュー作りをしていたのだ。

 外の人はいつでも来店できない。常に出せるメニューをひとつ置いておかないと、外からの客足は取り込めないのだろう。

「それにしても、このかき氷は絶品だな!」

「ありがとうございます。嬉しいです」

 いつも忙しそうにしている溝口さんだったが、息子さんが仕事を手伝ってくれるので、こうしてカフェ通いができるようになったのだとか。嬉しそうに、語っている。