「た、たとえばと言われますと、困ってしまうのですが。えっと、その……鷹司さんが町の者に対してなぜ未来を考えず、立ち退かないのかという疑問と同じくらい、なぜリゾート化するのかと、疑問に思っているはずです」

 鷹司さんは、ハッと目を見張る。

「なるほど、そうか! この町の者達は、リゾート化の意味をわかっていなかったのか。そして、おそらく永遠に理解できないだろうと」

「ええ」

 悲しい事実だが、“住む世界が違う”というやつだろう。

「すばらしい発見だ!」

「何が、でしょうか?」

「私と町の者達は、このままでは永遠にわかり合えないという点だ。私は、そんな些細な状況でさえ、気付かなかった!」

 鷹司さんは周囲の書類を片付け、丁寧に鞄の中にしまっていた。

「わかりやすく解説してくれて、心から感謝する。ありがとう。この町について、理解が深まった!」

「は、はあ」

 なんて、前向きな人なのか。こんな性格だったら、人生において生きにくさなど感じないだろう。

「ただ、困ったな。理解してもらえないのであれば、リゾート化は難しい」

「理解、してもらうつもりだったのですね」

「一応な」

 じっくり話し合えば、いずれわかってもらえると思っていたようだ。

「あの、互いの希望を理解するのは、難しいかもしれません。でも、歩み寄ることはできるはずです」

「歩み寄る? 私と、町の者達が、か?」

「ええ。双方の希望を、叶えたらいいのではないでしょうか?」

 鷹司さんの言う通り、過疎化は無視できないだろう。けれど、古くから住んでいる人達は家や土地を明け渡したくない。

「なるほど、“歩み寄る”か……」

 結婚みたいなものだろう。祖母から話を聞いた記憶がある。

 片方の願いを叶えるばかりでは、関係はすぐに崩れてしまう。大事なのは、互いに譲歩すること。想い合う心なのだと。

「――と、祖母も話しておりました」

「大事なのは、譲歩と想い合う心、か。山田幸代、深い言葉を遺していたのだな」

「ええ」

 これは結婚の際に気に掛けるものではなく、普段からも言えるものなのだろう。

「たとえば、どんな譲歩案がある?」

「え!? えっと……何が、あるでしょう?」

「考えがあって言ったわけではないのだな」

「え、ええ」

 キャンプでなくても、星空を見て、おいしいものを食べて、という体験はできるはずだ。ただ、この町に宿はない。