「だから、鷹司さんと、少し、話してみますね」

「わかった」

 納得してくれて、よかった。あとは、火花をバチバチ散らしている、良夜さんと鷹司さんを離さなければ。

「ちょっと、いいですか?」

「何ですか? 邪魔しないでください」

「そうだ。今、私はこの男と、尊厳をかけた勝負をしている!」

「一度、詳しくお話を聞かせてもらえたらなと」

「ふむ。だったら、近くのレストランに行こう。この辺りで、予約なしで入れる店はあるだろうか?」

「ないです」

 そもそも、この町にはレストランどころか、スーパーすらない。

「最寄りのレストランは、ここから車で一時間半にあります」

「そう、だったな。失念していた」

 鷹司さんはしょんぼりと肩を落とす。この土地については、いろいろ調べていたようだ。

 ただ、実際に歩き回っていないようで、スーパーやレストランがないというのを実感していなかったのだろう。

 彼には、もっとこの町について知ってもらう必要がある。最適な方法があるので、提案してみた。

「あの、よろしかったら、私が何か作りましょうか?」

「君が、手料理をふるまってくれるというのか?」

「はい」

「まあ、そうだな。どうしてもと言うのであれば」

 良夜さんは舌打ちし、つごもりさんはジロリと睨みつけている。鷹司さんは、まったく気付いていない。

「では、奥のお座敷で、お待ちになっていてください。一時間半くらいで、できあがると思うので」

「わかった。その間に、仕事でもしておこう」

 良夜さんやつごもりさんが何か言いたげだったが、聞かずに走って台所へ向かった。

 ひとまず、ご飯を炊こう。その前に、下ごしらえだ。

 冷凍庫の中から、タケノコの水煮を取り出す。葵お婆ちゃんのお孫さんが、山で採ってきたものを分けてもらったのだ。

 解凍させたタケノコをいちょう切りにして、油揚げはお湯をかけて油抜きをして一センチ間隔で切る。

 炊飯釜に研いだ米を入れ、醤油、みりん、料理酒、だし汁、タケノコに油揚げの順で入れた。あとは、炊くだけ。

 二品目は、近所の無人八百屋で購入した、エンドウ豆を使った一品を作る。

 まず、剥いたエンドウ豆を塩水に十分間浸けておく。その間に、だし汁に砂糖、みりん、塩を加えたものを作っておく。