昨日知り合ったばかりなのに、こういうものをくれる人なんて、あまりいないだろう。

「どうした?」

「あ、いや、その、いただいて、いいものかなと」

「受け取ればいいじゃないか。何を躊躇っているんだ」

 突然の好意を疑っていることに気付いたのだろうか。鷹司さんは急に真面目な顔になり、低い声で話し始める。

「あまり、他人には言いたくないのだが、私は、霊感があるんだ」

「霊感……幽霊が見えるのですか?」

「まあ、そうだな。私の場合は、悪いものを感じ取るんだ。なんというか、君は……」

 鷹司さんはしばしのためらいのあと、私に言った。

「正直、いい状態ではないだろう」

「えっ?」

「一度でも知り合い、喋った者が悪い目に遭うのは、正直、いただけない。だから、頼む。黙って受け取ってくれ」

 “いい状態ではない”とは、どういうことなのか。詳しく聞きたかったが、私から感じるモヤモヤとしたものは、言葉にできないと返されてしまう。

「とにかく、その鈴は、霊験あらたかな鈴だ。身につけていたら、災難を遠ざけるだろう」

「そ、そうですか。貴重な品を、ありがとうございます」

 ありがたく、いただいておく。すぐに、帯に付けた。

 これで大丈夫だと思いきや、続けてカードが差し出される。

「知り合いの、寺の住職の連絡先だ。いろいろやっているようだから、困った事態になったら連絡するといい」

 お寺の住職の連絡先が印刷された名刺のような紙を受け取る。普段から、紹介して回っているのだろうか。

 うちは神道なので、お寺のお世話になることは一度もなかったが……。

「あ、すみません。立ち話をしてしまって」

「別に構わない。この書類に署名でもしてくれたら」

「いえ、私はここの契約者ではないので」

「父君がそうだと、言っていたな? 父君は、今日は仕事か?」

「ええ。海外に出張に行っているかと」

「は!?」

「すみません。年から年中、国内海外問わずに飛び回っている職業でして、お正月くらいにしか、この家に帰ってこないかと」

「なんだと!? そんなの、聞いていない!!」

 鷹司さんは近くにあった椅子にどっかりと座り、不遜な態度で叫んだ。

「茶を持ってこい! 私は客だ!」

 ここで、奥の部屋から良夜さんがスタスタとやってきて、氷しか入っていないグラスを鷹司さんに差し出しながら言った。

「一回死んで、転生してからいらしてください」