昨日食べたローストビーフは、本当においしかった。

しっとり柔らかで、噛むとお肉の旨味がじゅわ~~っと溢れてきて。幸せってこんな味なんだと、しみじみしてしまったくらいだ。

 だがしかし、いくらおいしくても、朝からローストビーフはちょっと……という感じである。

 私とつごもりさんには、ロイヤルミルクティーにフレンチトーストのホイップクリーム添え、ゆで卵とサラダ、半分にカットしたグレープフルーツに、バナナ入りのヨーグルトを用意してくれた。

 なんだかカフェで食べるオシャレな朝食のようだった。

 もちづき君はローストビーフ丼をペロリと平らげていた。朝から絶好調である。
 つごもりさんは、フレンチトーストを幸せそうに頬張っていた。たくさんお食べと声をかけたくなる。

 良夜さんはキビキビ食べ、洗濯物をすると言っていなくなった。

 私がすると言っても、洗濯物のお仕事は譲ってくれない。
 
 なんでも、洗い方と洗剤、柔軟剤の分量、干し方などにこだわりがあるのだとか。勝手にすると怒られてしまうので、完全に彼に任せた状態となっていた。

「花乃、今日は何を出すの?」

紫陽花(あじさい)杏仁豆腐です」

「何それ?」

「今、お持ちしますね」

 昨日仕込んでおいたので、すぐに出せる。

 グラスに流し込して固めた杏仁豆腐に、四角くカットしたブドウゼリーやモモゼリーを各々載せ、ミントの葉を添えた。

「お待たせしました。紫陽花杏仁豆腐です」

「へー、きれいじゃん」

 さっそく、お褒めの言葉をいただく。もちづき君はスプーンでゼリーと杏仁豆腐を掬い、パクリと食べた。

「ゼリーの酸味と、杏仁豆腐の濃厚な風味がよく合うね。いいんじゃない?」

「よかったです」

 お墨付きをもらったので、ホッと胸をなで下ろす。

 ほんわかした空気の中、良夜さんが洗濯物を持ってやってきた。

「げっ、また、ここに洗濯物を干すの?」

「今日も雨ですので」

 そうなのだ。残念ながら、本日も雨がザーザーと降っている。
 恐らく、お客さんは少ない、もしくは誰も来ないだろう。

「花乃、安心しろ。もしも誰も来なくても、紫陽花杏仁豆腐は僕がすべて食べてやるから」

「あ、ありがとう、ございます」

 誰でもいい。お客さんよ、来てくれ。そんなことを願ってしまったからか、“招かれざる客”が、来てしまったのだ。

「なんだ、この雨は!?」