「いや、半分は、多すぎるような?」

『そんなことを言っているから、なんちゃってコンサルティングマスターとやらにいろいろ言われて、腰を抜かしてしまうのですよ!』

「うっ……!」

 そうは言っても半分は多い。三分の一いただいて、残りは冷凍庫に保存しておこう。

 このローストビーフがおいしいのなんのって。レストランではなく、ローストビーフ丼専門店を出したほうがいい。瞬く間に、行列ができるお店になるだろう。

 食後、赤ちゃんとなった満月大神が「ふええ……!」と泣き始める。

 つごもりさんは左右に揺れ、良夜さんがあやしていた。

 大きな犬と小さな犬が赤ちゃんをあやしているなんて、可愛いにもほどがある。

 途中、満月大神が足を激しくばたつかせてつごもりさんの背中にダメージを与えたり、良夜さんの耳を引っ張ったりしても、怒る気配はまったくない。

 なんて優しいもふもふ達なのか。

 心癒やされてしまった。

 翌日は、もちづき君は愛らしい赤ちゃんの姿から、いつもの尊大な美少年の姿に戻っていた。

 今日はすでに読む漫画をテーブルに積んでいた。それを、良夜さんはどかして朝食の準備をする。

「あ、ちょっと良夜! その漫画、巻数ごとにきれいに積んであるんだけれど!」

「朝食のあと、整えますので」

 問答無用で漫画を片付ける様子は、“おかん”そのものだろう。今日は彼が、朝食当番なのだ。

 昨晩の宣言通り、もちづき君に朝からローストビーフ丼を出していた。七味唐辛子を振った温泉卵も別に添えてあった。

 驚いたことに、ローストビーフで薔薇(ばら)の形を作ってある。あれはいったい、どうやって形を整えたのだろうか。

 ローストビーフの赤身が、見事な薔薇の赤を表現している。なんというか、芸術だ。 

「へえ、これ、良夜が作ったの? すごいじゃん」

 もちづき君が褒めると、クールな良夜さんは頬を染め、恥ずかしそうに目を伏せていた。こういうところが、彼の可愛いところだろう。

「その、昨晩の夕食として作ったのですが、満月大神は赤子の姿でしたので」

「ああ、そうだったね。あんまり、覚えていないけれど。花乃が、孫が大好き過ぎるジジババみたいな笑顔で僕を見ていたことだけは、記憶に残っているけれど」

「それは、覚えていなくていいものですよ……。良夜さんのローストビーフ、本当においしかったので、じっくり味わってくださいな」