「家主とは、山田幸代のことですか?」

「ああ。彼女以外の家主がいたら、紹介してほしいが――」

「祖母は亡くなりました」

「は?」

「祖母幸代は、三月下旬に、亡くなったんです」

「嘘だろう? 契約解除をしたくないから、そんな言い訳をしているのではないか?」

「言い訳に、身内の死を使うわけがないでしょう」

 初対面相手なのに、言葉尻がきつくなってしまった。

 祖母の死が嘘であればいいと今でも思うが、紛うかたなき現実だ。それを信じないなんて、あんまりだろう。

「わかった。信じる、信じるから……」

 ドン!と、勢いよくテーブルにお冷やが置かれる。良夜さんが、持ってきてくれたようだ。
 なぜか、氷がたくさん入っていて、いつも以上に冷え冷えである。

「ぶぶ漬け食べて、一回死んでください」

「お、おい! それ、ぶぶ漬け食べて今すぐ帰れって京都人のネタだろう? 死ねって初めて聞いたぞ!? な、なんなんだ、この店は……!? 存在感がない店員がいたり、毒舌の店員がいたり、まったく喋らない店員がいたり……!」

 短時間の滞在でこれだけ突っ込みができるのは、ある意味才能があるのかもしれない。心の中で、拍手してしまった。

「あの、すみません。どちら様でしょうか?」

「この私を、知らないだと?」

 ヤレヤレと呆れたように言い、もったいぶっている。

 この町出身の、売れない俳優とか? それとも、テレビ出演している投資家とか?
 育ちのよさは、なんとなく感じていた。

「私は――」