「同一の雷神が、雷から守ったり、鳴らしたりする、ということですか?」

「そう。神様には、さまざまな一面が存在する」

 荒々しい一面を荒魂(あらみたま)といい、穏やかな一面を和魂(にぎみたま)、幸せをもたらす一面を幸魂(さちみたま)、願望を成就させる一面を奇魂(くしみまた)という。

「神様も、人と同じなんですね」

 つごもりさんはそうだとばかりに、コクリと頷いた。

「それにしても、すごい雨ですね。こんな日に、お客さんなんて――」

 そう口にした瞬間、ガラリとお店の扉が開かれる。突然のお客さんは、ずぶ濡れスーツ姿の若い男性だった。

「なんだ、この雨と雷は!?」

 聞かれても困る、という言葉を呑み込んだ。
 はきはきとした大きな声で、自分に自信があるのがありありと分かる雰囲気であった。

「いらっしゃいませ」

「私は客ではない」

 冷たく言い放ちながら私の前をどんどん素通りし、椅子にどっかりと腰掛ける。濡れた前髪を、かき上げた。ここで、容貌が明らかとなる。

 ココアブラウンの髪に、(はしばみ)色の瞳を持っていた。目元はキリリと涼しげで、スッと通った鼻筋と唇は日本人離れした美貌だろう。

 年頃は二十代後半くらいか。前髪をかき上げる動作が、妙にサマになっていた。水も滴るいい男と言えばいいものか。

 見とれてしまうほど顔が整っていたが、「ぶえっくしょい!」と盛大で残念なくしゃみをしたので顔が歪む。

 どこからともなく現れた良夜さんが、お客さんに渡すようにとバスタオルを差し出してくれた。

「あの、どうぞ」

 差し出されたタオルに、お客さんはびっくりした顔を返す。

「うわっ、君、どこから現れたんだよ!?」

 大きな声に、私のほうが驚いてしまう。ただ立っていただけなのに、驚かれるのは日常茶飯事である。

「私は、ずっとここにいましたが」

「笑えない冗談はよしてくれ」

 私の影の薄さはさておいて。このままでは風邪を引いてしまうだろう。

「温かいお茶か、コーヒーをご用意いたしましょうか?」

「いい。すぐに帰るから。それよりも、この前不在だった、ここの家主はいるのか?」

「家主、ですか?」

「そうだ――は、はっくっしょーい!」

 残念なくしゃみをするこの男性は、いったい何者なのか。態度や、祖母の死を知らない点から推測して、祖母の親しい人物ではないだろう。