そんなもちづき君の近くでは、扇風機が最大風力で稼働していた。その状態で漫画が読めるのだろうか。気になるところである。

「水ようかんと、麦茶です」

「さすが花乃だ。こういう日のおやつを、よくわかっている」

 すぐにもちづき君はスプーンを握り、水ようかんを食べた。

「あー、ひんやりしていて、ツルンとのど越しもよく、味わいはさっぱり。暑い日は、これだね!」

 お口に合ったようで、何よりである。

「洋菓子は何を作ったの?」

「スモモのシャーベットです」

「ちょっと! そっちもすぐに持ってきてよ」

「は、はあ。気が利かずに」

 いつもは和菓子のチェックしかしないが、今日は洋菓子も食べるようだ。
 毎日、和菓子と洋菓子の両方を用意している。

 人気なのは和菓子のほうだけれど、最近洋菓子も楽しみにしてくれるお客さんも多くなった。嬉しい悲鳴である。

 スモモは都会のスーパーではあまり見かけない、ちょっぴり珍しい果物だ。

 佐々木さんの果樹園で作っているものを、お菓子用に買わせてもらった。
 甘酸っぱくて歯ごたえがある、初夏が旬のおいしい果物である。

 まず、もちづき君に持って行き、それからお店の掃除をしていたつごもりさんに持って行く。

 最後に、お風呂洗いをしていた良夜さんにスモモのシャーベットを持っていった。

「これ、なんですか? 鬼の血肉の氷菓?」

「違います。そんな物騒なものではありません。スモモのシャーベットです」

 スモモの皮ごと作るので、見事な赤に染まるのだ。確かに、赤鬼を彷彿する鮮やか過ぎる色合いだ。

 作り方は実にシンプル。スモモを半分に割って種を抜き、砂糖水と一緒に煮込む。煮汁が真っ赤になったらレモンを搾り、ミキサーに移してなめらかになるまで混ぜるのだ。

 それを食品保存容器に入れ、混ぜては凍らせを繰り返したのちに完成となる。
 良夜さんはスモモのシャーベットを受け取り、立ったままパクリと食べる。

「冷たくて、甘酸っぱい、ですね」

「ええ。私、シャーベットの中で、一番スモモが好きなんです」

 祖母が作ってくれた、思い出の味でもある。私がアイスクリームを食べたいと言ったので、近所の若奥様に相談して作ってくれたのだ。

「そこで、お店に買いに行かないところが、幸代らしいですね」

「そうですね。私のために、なんでも作ってあげたかったみたいです」