その日の夜――月に一度の新月の晩となった。

 もちづき君が、姿を現せなくなる夜である。

 四月の新月はなんとも思わなかったのに、五月の新月は少しだけソワソワする。

 私は意識していないうちに、満月大神の存在を心の支えに思っていたのかもしれない。昼間は漫画を読みながらテレビを見るというぐうたらぶりを発揮し、狛犬カフェは一切手伝わないのに……。

 本当に、不思議な存在だ。

 夜間は月の満ち欠けによって、姿を変える。
 月が細ければ細いほど、幼い姿となる。

 新月の前日は、赤ちゃんになっていた。昼間のぐうたら美少年とは違い、精神はそのときの姿に引っ張られる。

 つまり、赤ちゃんとなった満月大神は、夜泣きをする上に「だあだあ」と言いながら無邪気に笑う、愛らしい存在となってしまうのだ。

 主に、良夜さんが面倒を見てくれる。赤ちゃんを抱き、上手にあやす姿は“おかん”そのものだ。

 満月の晩は、お爺ちゃんの姿となる。まるで、浦島太郎みたいに、髪の毛が真っ白になり、性格も穏やかになるのだ。