熱く叫ぶもちづき君の隣で、つごもりさんも自らの自転車に跨がっていた。

 いつも漫画を買いに行くときだけに使われるものだ。しかし今日は、葵お婆ちゃんのもとへ一緒に行ってくれるらしい。

 自転車に乗るなんて、小学生の高学年のとき以来だ。久々だが、乗れるものなのか。

「い、行ってまいります」

 私より先に、つごもりさんが飛び出す。ぐんぐん走って行った。一方の私は、ヨロヨロしながらも、懸命にマウンテンバイクをこぐ。

 やっとのことで、葵お婆ちゃんの家にたどり着いた。

 マリーちゃんの鳴き声が聞こえる。『おばあちゃんを助けて!』という訴えが聞こえた。家に入ると、倒れている葵お婆ちゃんの姿があった。

 つごもりさんは必死になって、声をかけている。

 葵お婆ちゃんは顔面蒼白で、ガタガタと痙攣(けいれん)している。

「意識が、ない」

「救急車を呼びましょう!」

 持ってきていたスマホで電話をかける。すぐに来てくれるようだ。
 その間に、何かできるのか。

『これ、おばあちゃんに、あげて! いつも、舐めているやつ!』

 マリーちゃんが持ってきたのは、粉末のブドウ糖だ。これで、血糖値を上げていたのだろう。

 意識がないが、どうやって与えたらいいのか。調べてみたら、唇や歯肉に付ける方法を発見する。早速、試してみた。

「葵お婆ちゃん、ちょっと失礼しますね」

 ブドウ糖を少量含ませると、もぐもぐと口元が動いた。

「ううっ……」

「葵お婆ちゃん、大丈夫ですか!?」

 呼びかけると、葵お婆ちゃんはうっすら瞼を開いた。

「さ、幸代ちゃんかい? 天国から、お迎えに、来てくれたんだねえ」

「幸代お祖母ちゃんではないです。孫の花乃です! 花乃!」

「ああ……だから、てっきり……お迎えかと」

 私は若いときの祖母そっくりだったので、勘違いをしてしまったのだろう。

「花乃ちゃん……大丈夫、なのかい?」

 大丈夫とは、お店のことだろうか。そんなことよりも、葵お婆ちゃんのほうが大事だ。お客さんがきたとしても、良夜さんがなんとかしてくれているだろう。

「救急車を呼んだので、もう少し、耐えてくださいね」

「ありがとうね。すっかり、世話になって」

「いえ……」

 葵お婆ちゃんと祖母の姿を重ねてしまい、涙ぐんでしまう。

 ふと、カレンダーを見たら、介護士がくる日にマルがついていた。今日は、来ない日だったらしい。