佐々木さんから、イチゴをたくさん仕入れた。それを使って、イチゴのシフォンケーキを作ったのだ。

 イチゴパウダーを混ぜたクリームをたっぷりと塗り、ルビーみたいなイチゴを飾る。盛り付けるときにもイチゴと、甘酸っぱいイチゴソースを添えるという、贅沢な一皿に仕上がっている。

 和菓子だけでなく、洋菓子も始めるようになったのは、お客さんから要望があったからだ。

「パティシエール特製のお菓子を食べたい、か」

「ありがたいお話です」

 売り上げを見て、持ち帰り用のケーキやクッキーも作ってみたい。そんなことを考えていたら、なんだか楽しくなってしまった。

 と、もちづき君と話し込んでいる場合ではない。お湯を沸かしたり、お店の前を掃除したりと、開店準備をしなければ。

「それでは、失礼します」

「ああ。しっかり働いてくれ」

「もちろんです」

 営業中の札をかけ、青空を振り返って背伸びをする。

 今日は、どんなお客さんがくるだろうか。楽しみだ。

 小さな町とはいえ、まだまだ知らない人ばかり。どんどん話しかけて、お店に興味を持ってもらいたい。

 お店の前を、一頭の犬が通り過ぎる。あれは、シーズー犬のマリーちゃんだ。
 散歩紐を握っているのは、御年(おんとし)九十一にもなる、葵お婆ちゃんだ。

 毎日マリーちゃんの散歩を日課にしていて、たまにお店に立ち寄ってくれるのだ。
 マリーちゃんはすぐに、私に気付いてくれた。