そんな状況なのに、私は何食わぬ顔で出勤し、今日もお菓子を焼いている。
動いていないと、祖母の死について考えてしまうので、いつも以上に働いてしまうのだ。
祖母の葬儀から一週間経ったが、いまだに答えが出せないままでいる。
辞めたらお店に責任がかかるとか、引っ越しても田舎に仕事があるのだとか、心配が尽きない。
誰かに家を貸すという方向も検討した。だが、人口が少なくなりつつある町の築百年の家を、誰が借りるというのか、という結論になった。
今は、バリバリ働いているほうが、楽だ。無心になれる。
あっという間に、一日が過ぎていった。
終業後も、新人パティシエがするはずの材料の計量をこなし、ひと息つく。
休憩室でお茶でも飲んで帰るかと思っていたら、扉の向こうから会話が聞こえた。
「ねえ、まだ計量終わっていないんでしょう?」
「大丈夫、大丈夫。勝手にしてくれるから」
「もー、“座敷わらし”にばかり頼っていたら、いつまで経っても一人前になれないんだからね」
胃の辺りがスーッと冷えたような、心地悪い感覚に襲われた。その場から動くことも出来ずに、ただただ呆然と話を盗み聞きするような形になってしまう。
「でも、なんていうか、何を考えているか、わからないんですよね。誰に対しても、ニコニコしていて、人間味が薄いっていうか」
「それはわかるかも。本心が見えないっていうの? 存在感も薄いし、座敷わらしって名前がぴったりだなって」
ふたりの発言に、胸がツキンと痛む。
“座敷わらし”というのは、私のあだ名だ。なんでも、勝手に仕事をしてくれるので、働く人達が幸せになれるから、と。
それは学生時代のあだ名で、当時の私は前髪パッツンでおかっぱの髪型で、座敷わらしそっくりだったのだ。
学生時代の知人がお店にきたとき、「あれ、座敷わらしじゃん!」と言われてしまったのが、瞬く間に職場で広がったのだ。
学生時代と社会人時代では、由来は異なるけれど、どちらも複雑な思いになるのが本音だ。悪い存在ではないのだけれど……。
ふと、祖母の言葉を思い出す。
――好意を相手に向けたら、好意が返ってくるよ。けれど、少しでも“仕方がない”とか“面倒だけれども”という気持ちが混ざっていたら、同じようなものが返ってきてしまう。好意の扱いには、気を付けなさい。
動いていないと、祖母の死について考えてしまうので、いつも以上に働いてしまうのだ。
祖母の葬儀から一週間経ったが、いまだに答えが出せないままでいる。
辞めたらお店に責任がかかるとか、引っ越しても田舎に仕事があるのだとか、心配が尽きない。
誰かに家を貸すという方向も検討した。だが、人口が少なくなりつつある町の築百年の家を、誰が借りるというのか、という結論になった。
今は、バリバリ働いているほうが、楽だ。無心になれる。
あっという間に、一日が過ぎていった。
終業後も、新人パティシエがするはずの材料の計量をこなし、ひと息つく。
休憩室でお茶でも飲んで帰るかと思っていたら、扉の向こうから会話が聞こえた。
「ねえ、まだ計量終わっていないんでしょう?」
「大丈夫、大丈夫。勝手にしてくれるから」
「もー、“座敷わらし”にばかり頼っていたら、いつまで経っても一人前になれないんだからね」
胃の辺りがスーッと冷えたような、心地悪い感覚に襲われた。その場から動くことも出来ずに、ただただ呆然と話を盗み聞きするような形になってしまう。
「でも、なんていうか、何を考えているか、わからないんですよね。誰に対しても、ニコニコしていて、人間味が薄いっていうか」
「それはわかるかも。本心が見えないっていうの? 存在感も薄いし、座敷わらしって名前がぴったりだなって」
ふたりの発言に、胸がツキンと痛む。
“座敷わらし”というのは、私のあだ名だ。なんでも、勝手に仕事をしてくれるので、働く人達が幸せになれるから、と。
それは学生時代のあだ名で、当時の私は前髪パッツンでおかっぱの髪型で、座敷わらしそっくりだったのだ。
学生時代の知人がお店にきたとき、「あれ、座敷わらしじゃん!」と言われてしまったのが、瞬く間に職場で広がったのだ。
学生時代と社会人時代では、由来は異なるけれど、どちらも複雑な思いになるのが本音だ。悪い存在ではないのだけれど……。
ふと、祖母の言葉を思い出す。
――好意を相手に向けたら、好意が返ってくるよ。けれど、少しでも“仕方がない”とか“面倒だけれども”という気持ちが混ざっていたら、同じようなものが返ってきてしまう。好意の扱いには、気を付けなさい。