今日も、もちづき君は気持ちがいいくらい食べてくれた。つごもりさんは目がキラキラ輝いているし、良夜さんも口の端がわずかに上がっている。

 聞かずとも、おいしいという気持ちは伝わっていた。

 朝食後は桜まんじゅうを仕込み、開店準備を行う。予定通り、十一時にはお店の営業を開始できそうだ。

 完成した桜まんじゅうとお茶を居間に持って行くと、もちづき君はすでに漫画を持ち込み、テレビのリモコンを我が物のように握っていた。頬杖を突いてぼんやりニュースを眺めている。

「神様でも、ニュースを見るのですね」

「いや、人がもたらす情報なんて、興味ない。気分が悪くなる」

「だったら、なぜ、眺めているのですか?」

 そう問いかけた瞬間、もちづき君は口元に人差し指を添える。静かに、と言いたいのだろう。もちづき君は真剣な眼差しで、テレビを見つめていた。

 いったい何が始まったのかと思い、テレビに視線を移す。自宅で飼っている犬を紹介するコーナーが始まったようだ。

 ゴールデンレトリバーが、主人に向かって吠えている。眉尻を下げながら、本当に可愛いとデレデレしていた。

「ワンワン吠えて、何を訴えているんだか」

 ふと、意識を集中してみると、犬が訴えている言葉がわかる。

『ご主人、大好き! パクリとひと思いに食べてしまいたい! でも食べたら、お別れになっちゃうから、食べない!』

 なんだか怖いことを考えている。動物の思っていることなんて、知らないほうが幸せだろう。
 ここで、もちづき君にも神通力について報告した。

「動物の言葉がわかるだって?」

「はい」

「だったら、さっきのゴールデンレトリバーが何を話していたのかも、わかるの?」

「ええ。ご主人様を食べてしまいたいほど、愛しているとおっしゃっていました」

「何それ。怖っ!! っていうかその力、役に立つの?」

「どうでしょう?」

 能力としては未知数である。神通力といったら、悪しき存在を退治したり、亡くなった人を現世に呼び戻したりと、そういう不思議なものだと思っていたが……。

「まあ、何もないよりは、いいだろう」

「ですね」

 果たして、動物を会話できるという力は巫女として役に立つのか。乞うご期待、としか言いようがない。

 とにかく、今日も一日頑張ろう。そう気合いを入れて、営業中の札をかけに行ったのだった。

 ◇◇◇