「登校するのは、あまりにも早すぎます」

 あの声はいったいなんだったのか。と、思った瞬間、再び声が聞こえた。

『アー、アー、アー、朝ダヨーー!!!!』

 それは、鶏小屋のほうから聞こえた。

「良夜さん、今、声が!」

「は?」

 何を言っているのだ、という顔で見られる。

「声が、聞こえたんです。鶏小屋のほうから」

「鶏の鳴き声しか、聞こえませんでした」

「え、ですが、あーあーあ、朝だよー、という叫びが、聞こえたのですが」

 良夜さんは明らかに面倒くさい、という表情で鶏小屋を覗き込む。

「何もいません。普通の、鶏小屋です」

 私も良夜さんの背後から覗き込んだが、なんの変哲もない、鶏小屋だった――?

『はー、今日も天気がいいわー』

『洗濯物も、よく乾くわよ』

『お腹空いたー!』

 鶏が、主婦みたいな会話をしていた。

「えっ、ど、どういう、こと?」

「何が、です?」

「に、鶏が、お喋りしているんです!」

「は?」

 本日二回目の良夜さんの辛辣な「は?」だが、気にしている場合ではない。

『あー、もうすぐ田植えだなー』

『早く米、実らないかなー』

 上から声が聞こえる。それは、スズメ達の会話だった。

『今日も寒いなあ』

 背後から聞こえた声に振り返る。野良猫だった。