七味醤油マヨネーズにイカを付け、食べる。続けて、ビールを飲んだ。

「お、おいしい……!」

 思わず、声が出てしまった。

 春の柔らかな風が吹き、桜がはらりはらりと散る。なんとも美しい夜桜だ。
 この様子だと、数日のうちには散ってしまうだろう。来年の分の桜の塩漬け分も確保しなければならない。

 明日にしよう。そう決めて、ビールをごくりと飲み干した。

 庭の端っこに、ゴムまりを発見した。近所の小学生が遊びにきて、忘れたものだろうか?
 ゴムまりなんて東京では絶対に見かけないが、この町では駄菓子屋で入手できる。

 私も、小学生の頃は祖母とまりをついて遊んだ。その思い出を職場で語ったら、「昭和初期からタイムトリップしてきたの?」なんて聞かれた記憶まで思い出してしまう。

 おそらく、両親の世代でも、ゴムまりで遊んだ覚えがある人は少ないだろう。

 懐かしくなって、思わず手に取ってしまう。その場で、てんてんとついてみた。

「いち、にー、さん――おっと!」

 小学生のころは百回くらいつけたような気がしたが、ゴムまりは私の手を離れて明後日の方向へ飛んでいってしまった。
 それと同時に、黒く大きな生き物が草むらから飛び出す。

「うわっ!」

 驚き、声をあげたのと同時に、ゴムまりを銜えた姿で振り返った。

 それは、黒く大きな犬――つごもりさんだった。

「あ、えっと、こんばんは」

 私が会釈したので、同じように返してくれる。
 少し気まずげな顔で近づいて、銜えていたゴムまりを私の足下に落としてくれた。

「えっと、もしかして、ずっとお庭にいました?」

 つごもりさんは、コクリと頷く。一通りの行動を見られていたとは、恥ずかしすぎる。

 ゴムまりでもついて、羞恥心を誤魔化そう。そう思ってゴムまりを持ち上げたら、つごもりさんの瞳がキラリと輝いた。

 視線は、ゴムまりに釘付けである。もしかして、ゴムまりで遊びたいのだろうか。

 取り上げてごめんよと思いつつ、つごもりさんの前にゴムまりを置いた。すると、キラキラの瞳は一気に暗くなる。ゴムまりで遊びたいわけではないと?

 再び手に取ると、瞳がキラキラ輝き始めた。

 これは、アレだ。ゴムまりで遊んでほしい感じだ。