『朝と昼に食べるのは、人の姿を保つためです。変化の術は、力を使うので』

「な、なるほど」

 たくさん作ってしまったが、問題ないらしい。満月大神が完食してくれるだろうと。

『いつも遠慮して食べているとおっしゃっていました。心配はいらないですよ』

 良夜さんの言葉の通り、満月大神は三人前の料理をペロリと食べてくれた。

「久しぶりに、満足いくまで食べられたよ。花乃、よくやった」

「喜んでいただけて、何よりです」

 ここまできれいに食べてくれたら、気持ちがいい。作った甲斐があるというもの。
 どの料理も、自分で言うのもなんだが、おいしく仕上がっていた。

 アスパラの肉巻きは、アスパラガスのシャキッとした食感が少しだけ残っていて、濃いめの味付けのおかげでごはんが進んだ。

 ジャガイモの味噌汁は、春採れジャガイモがホクホクで、ほのかに甘みも感じた。

 菜の花のくるみ和えは、ほんのり苦みのある菜の花に、香ばしいくるみが味わいをまろやかにしてくれる。

 からみ餅は、大根おろしと七味唐辛子のピリリとした辛みが利いていて、おいしさのあまりいくらでも食べられそうだった。

「今日一日、よく頑張った。明日も、しっかり励むといいよ」

「はい、頑張ります」

 食器はつごもりさんと良夜さんが洗うと名乗り出たが、いったいどのようにして洗うのか。しばし眺める。

 台所にお盆と、ふたつのたらいを銜えて持ってきていた。それに、水を張ってくれと頼まれる。

 水を張ったたらいの中に夕食で使ったお皿を浸け、洗剤を垂らす。犬かきをして泡立たせ、もこもこの水の中でお皿をアライグマのように洗っていた。

 その様子は、可愛いとしか言いようがない。スマホでムービーを撮ろうとしたら、つごもりさんと良夜さんは映っていなかった。

 スマホを通して見た様子は、ただ誰もいないところで食器が洗われているという怪奇現象だったのだ。

「ヒイ!」
 スマホをゴトン! と落としてしまう。呆れた様子で、良夜さんが言った。

『私達は人でも、犬でもありません。人の作った機械に、映るわけがないでしょう』

「で、ですよね」

 改めて、私はとんでもない状況に身を置いているのだなと、思ってしまった。

 明日の仕込みをしておく。水に浸けていたあずきを、炊いておくのだ。