お葬式が終わったあと、父はとんでもない発言をしてくれた。これから出張だから、成田空港に向かわなければならない。納骨は頼んだ、と。

 我が耳を疑ってしまった。
 続けて、さらに驚くべき事実を告げた。

 父と私が育った祖母の家は、地主から借りている土地なのだとか。人が住めない状態となれば、契約は強制終了となるらしい。

 なんて勝手な……と思っていたが、法律に基づいたものらしい。土地に関する決まりが、定められていると。

 新しい借地権法では、契約金を払い続けたら半永久的に住める。けれど、古い借地権法では、建物が老朽化し、それを定期的に修繕する者がいない場合借地権が消えてしまうようだ。

 祖母の家は百年以上前に地主から借りたもので、借地権は古いものが適用されるようだ。

 衝撃を受ける私に、父は言った。祖母の家を取り壊し、更地にすると。

 後頭部を金槌で殴られたような感覚に陥る。
 祖母との思い出が詰まった家が、なくなってしまうと?
 あの家は、祖母の宝石箱なのに。

 建て付けが悪くて開きにくい玄関の引き戸も、古めかしい五右衛門風呂も、昭和チックな土間の台所だって、祖母にとっては祖父や父との思い出が詰まった宝物だ。

 生まれて初めて、父を罵った。親不孝者だ、と。
 父は怒らなかった。実に感情のない目で、私に告げた。
 もしも管理をしてくれるのならば、取り壊すのは止めると。

 頭の中は真っ白になった。
 祖母が亡くなったばかりで、感情はぐちゃぐちゃだ。今、この瞬間に正しい判断をしろというのは、難しい話だろう。

 父は半月後に、日本に戻ってくるという。それまでに、考えて答えを出すようにと言われた。

 外はザーザー雨が降っている。

 雨は神様の涙だと、祖母が教えてくれたのを思い出す。
 神様も、祖母の死を悼んでくれているのだろうか。
 私の中の雨は、まだ止みそうにない。

 ◇◇◇