私も、最初は上手く作れなかった。祖母はできない私を叱らずに、根気強く指導してくれたのだ。

「これだったら、喫茶店でだせます。満月大神に、味を見ていただきましょう」

 なんと驚いたことに、もちづき君の合格が出なければ喫茶店に出してはいけないらしい。今まで、良夜さんが何度もお菓子を作ったようだが、一度も合格をもらえなかったと。

 そんな話を聞いたら、緊張してしまう。

「大丈夫」

 つごもりさんが私の肩を優しく叩いてくれた。

「そうですよ。この仕上がりであれば、心配はいりません。桜まんじゅうには、幸代の技術がすべて継承されているので」

「は、はい!」

 もちづき君は、居間にいた。寝っ転がりながら漫画を読み、テレビには韓流ドラマを流していた。そのままの姿勢で、ジャガイモチップスを食べている。

 すごく……ぐうたらな姿だ。きっと、祖母が見たら怒っていただろう。さすがに神様相手には怒らないのかもしれないが。

「桜まんじゅう、できたの?」

「はい」

 すると、もちづき君は起き上がる。
 良夜さんはテーブルに桜まんじゅうを置き、つごもりさんはお茶を添える。

「ふーん。見た目は、幸代の桜まんじゅうそのものだね」

 毎年春になると、村の祭壇にお供えしていた。そのため、馴染みのお菓子なのだろう。
 桜まんじゅうを食べる様子を、ドキドキしながら見守る。

 口にし、もぐもぐと食べた瞬間、カッと目が見開かれる。お茶を一口飲んで、ぽつりと呟いた。

「おいしい……! 春の味がする」

 膝の力が抜けて、その場に座り込んでしまう。

「なんだよ?」

「いえ、きちんと作れているのか、心配だったので」

「きちんと作れているよ。幸恵と同じ、真心の味がした」

「真心の……味、ですか」

「ああ。丁寧に丁寧に作られた菓子は、“おいしい”という、特別な力が籠もるものさ。きっと、狛犬カフェを訪れる者達も、喜ぶだろう」

「はい!」

 そんなわけで、桜まんじゅうをお店で出す許可が出た。さっそく、良夜さんがメニューを毛筆で書いてくれた。

 本日の菓子――桜まんじゅう お茶付き千円。

「こんなものですか!」

「はい、すばらしいかと」

 良夜さんの文字はきれいだった。私も、暇があれば習いたい。

 お店の壁に、本日のメニューを掲げておく。

 今日は、どんなお客さんが来るのだろうか。ドキドキしてしまった。