年齢が上がるにつれて、毎週遊びに行くなんてことはなくなった。それでも、夏休みや冬休みになったら毎年遊びに行っていたが。

 パティシエールとなってからは、夏休みという概念はない。人々が休んでいる期間はかき入れ時のため、長く休めなかった。

 それでも、年末年始は一週間の休みがあったため、祖母と共に年を越し、お正月を過ごしていたが。

 大晦日とお正月は、唯一父と私、祖母が揃うときでもあったのだ。

 と、祖母との思い出について考えていたらキリがない。桜まんじゅう作りに集中しなければ。

「まず、桜の塩漬けの塩抜きをします」

 水の量と浸けておく時間をつごもりさんに伝えておく。

「良夜さんは、あんこの解凍をお願いします。あんこが緩いようでしたら、鍋で水分を飛ばしてください」

「わかりました」

 ふたりがせっせと作業している間、私は生地作りを行う。
 ボウルに薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、水を入れて、滑らかになるまで生地を混ぜる。生地がまとまってきたら、桜の花を粉末化させた桜パウダーを加えて捏ねた。

 ふと、東京で桜まんじゅうを見かけ、買った日の記憶が甦る。喜んで頬張ったのだが、桜の風味がまったくしなくて、驚いたのだ。

 原材料を見て見たら、まんじゅうの生地の色づけが桜パウダーではなく、食紅だったのだ。桜の風味がしないわけである。

 そんなわけで、桜まんじゅうに使う桜パウダーは、重要なものなのだ。
 桜色に色付いた生地を、しばし休ませる。

 つごもりさんは塩抜きした桜の塩漬けを丁寧に並べ、良夜さんはあんこを一口大に丸めてくれていた。きっと、彼らは祖母の手伝いをしていたのだろう。できる狛犬だ。

「そういえば、カフェはつごもりさんと良夜さんが担当しているのですよね?」

「ええ、そうですよ」

「もちづき君は、いったい何を?」