「満月の名を冠する神様なので、月にちなんだお名前なのですね」

「ええ」

 と、喋りながら整理をしているうちに、遺品整理は終わった。というか、整理はされていて、捨てるものはいっさいなく、祖母との思い出を語る時間になってしまった。

「あの、良夜さん、ありがとうございました」

「なんですか、急に」

「気持ちに、整理がついたんです」

 祖母が亡くなってから一ヶ月――ずっと、私の心は沈んだままだった。
 けれど、祖母が生きた歴史がこの家にあって、祖母を大事に思ってくれる存在がいて、皆の心の中で祖母は生きている。

 人の死によって受けた心の傷は、永遠に癒えないだろう。だからといって、ずっと悲しんでいるわけにはいかない。

 心の傷と向き合い、上手く付き合っていく。それが、私にできるものなのだろう。

 祖母が、初恋の人や祖父の死と共に明るく生きたように、私もそうでありたい。

 話が途切れたタイミングで、襖が開かれる。キャベツを片手に持ったつごもりさんだった。

「あ、あれ、どうしたんですか?」

「お昼……」

「あ、もう、十二時なのですね」

 お昼のサイレンにも気付かないほど、作業に集中していたようだ。

「つごもり、なんでキャベツを持っているのですか?」

「収穫、できた」

 少し誇らしげに、キャベツを見せてくれた。なんだろうか、ボールを投げた犬が拾ってきて、ご主人に褒めてもらいたいような雰囲気は。

 じっと私に視線を向けるので、褒めておく。

「ひとりで採れたのですね! 偉いです」

 そう言うと、つごもりさんは淡く微笑んだ。犬の姿だったら、「よーしよしよし」と言って撫でただろうが、今は成人男性の姿である。伸びそうになった手は、ぎゅっと握りしめた。

「えっと、では、この春キャベツで、何か作りましょうか」

 と、宣言したのはいいものの、何を作れるだろうか。そういえば、五合炊いたご飯は、すべて食べ尽くしてしまった。男子の食欲を、舐めていたのだ。

 つごもりさんが、キャベツを持って台所までついてくる。ボール遊びをしてほしい、犬みたいだ。キャベツなので、「取ってこーい!」と投げるわけにはいかないけれど。 台所の棚を探っていたら、スパゲッティを発見した。

「春キャベツのパスタにしましょうか!」