「それが、味噌汁の雑味になり、本来のお味噌の味わいを邪魔すると、教えてもらったことがあります」

 良夜さんは味噌汁のお椀を覗き込みながら、悔しそうにしている。クマのパジャマ姿では「可愛いな」という感想しか抱かなかったが。

「お、おい! つごもり、良夜、このだし巻き卵も、幸恵の味だ!」

「ほ、本当ですね!」

「おいしい……」

 なんというか、祖母は神様と神使の胃袋を、しっかり掴んでいたようだ。どんどんパクパク食べてくれる。非常に気持ちがいい。

 おかわりの連続で、五合炊いた炊飯器の中身は空と化してしまった。恐るべし、男子の食欲。

「僕らは、幸恵の味に飢えていたんだ」

「どれだけ頑張っても、料理の再現は難しかったんです」

 確かに、祖母の料理はどれもおいしかった。どの料理も、下ごしらえから丁寧に作られていたからだろう。

 バタバタと忙しい毎日を過ごす中では、なかなか料理まで気が回らなかった。祖母の料理を通して、本来の私を少しだけ取り返したような気がする。

「どれも、おいしかった。ごちそうさま」

 もちづき君がぶっきらぼうに言うと、つごもりさんと良夜さんも続けて「ごちそうさま」と言ってくれた。
 なんだか胸が温かくなる。

 この瞬間に、ハッと気付いた。これこそが、きちんとした“好意”の形なのだろう。
 私の料理で喜んでくれる人がいる。それは、パティシエールを目指した理由のひとつだった。

 この地には、彼らだけでなく、他にも、祖母の味を求めている人達がいるのかもしれない。
 だったら、巫女として、和風カフェで働いてもいいのではないか?

 急に、祖母の言葉が、甦る。

 ――あなたの人生は、あなたのものなんだよ。だから、楽しく、好きにお生きなさいな。

 祖母が、私の背中を押してくれるような気がした。