「おそらくこの町の人々は、困った事態となれば、あんたに相談にくるようになるだろう。神通力もなしに、解決できると思う?」

「そ、それは……」

 もう、頭の中はパンク状態だ。情報量が、あまりにも多すぎる。

「意外と頑固だな。すぐに、流されるまま受け入れると思っていたが」

「すみません」

 ひとつ、気になっていたことを質問してみた。

「あの、みなさんは、どうしてここでカフェを開いているのですか?」

「それは――幸代の願いを叶えるために誕生したのが、ここの和風カフェなんだよ。まあ、それ以外にも、理由があるんだけれどね」

「もしかして、土砂崩れで神社が呑み込まれてしまったのと、関係があるのでしょうか?」

「そうだね。この村の新しい地主は、神社を建て直さない方針でいる。幸代がいくら神社が必要だと訴えても、聞く耳は持たなかったらしい。正直、愚かな地主に腹が立った。再び、厄災になりそうにもなった。けれど、幸代が時間をかけて僕の怒りを静め、神社代わりにこのカフェで、人々が愚かかどうか、今一度見てほしいと言われたんだ」

 祖母はこのカフェに訪れる人々に、困った事態になれば満月大神様が助けてくれる。信じなさいと説いていたらしい。

「気まぐれで、人々の願いを叶えたんだ。すると、信仰心が上がるようになって――」

 なるほど。祖母は、このお店で巫女と神様を繋ぐ役割をこなしていたと。ということは、ここに、この町に、巫女の存在はなくてはならないものだろう。

「現代となり、厄災が科学的に分析されるようになって、人々は神を信じなくなった。だから、神社が放置されるのも、無理な話ではない」

 人は勝手だ。信仰を忘れ、ずっと自分達の力で暮らしてきたと思い込んでいる。長きにわたってこの地を守ってくれた神様に対する、冒涜だろう。

「人は神に期待しない、だから僕達も、人に期待するのは止めたんだ。神社も、自分達の力で修繕したい」

 狛犬カフェの売り上げを、神社の修繕費に充てるようにしているのだとか。
 驚いた。神様が自ら、商売をしているなんて。

「幸代はすぐに賛同してくれたよ。少ない貯金も、神社の修繕に使ってくれと、寄付してくれた」

「私は――」

 どうすればいいのか。祖母のように、柔軟な考えはこれっぽっちも持っていない。

 ぎゅっと、拳を握る。考えれば考えるほど、答えはでてこなかった。