初めて聞いたつごもりさんの声は、落ち着いていて優しかった。

 もう、ここまできたら、信じるしかないだろう。
 それにしても、本当に驚いた。
 喋る犬に、脳内会議を覗ける神様――彼らは、たぶん本物なのだろう。

「やっと信じた?」

「はい」

「幸代は、すぐに信じてくれたのに」

「お祖母ちゃんは、昔から不思議な現象が目に見えていたと言っていたので」

「ああ。幸代はよい巫女だった」

「巫女……お祖母ちゃんは、巫女だったのですか?」

「そうだ」

 神社にいるような巫女とは異なり、神より神通力(じんつうりき)が与えられるらしい。

「神通力、ですか」

「ああ。人には見えないものが見えたり、未来を予知したり、悪しきものを祓ったり。人と神を繋ぐ、役割と言えばわかりやすいのか」

 そういえばと思い出す。祖母を頼って、いろんな人が相談にきていた。そのたびに、果物や野菜をもらい、それらは村の祭壇に収められていた。

 祖母はそれらを、神饌(しんせん)――神様にお供えする食べ物だと教えてくれる。

 神饌は数日経つと、食卓に上がっていた。神饌が使われた料理のときだけ、神への感謝の気持ちを伝える祝詞が詠まれていたのだ。祖母がぶつぶつ唱えるだけだったので、内容は覚えていないけれど。

「現在の巫女は?」

「あんたがすればいい」

「わ、私、ですか!? 私なんかに、巫女が務まるのか……」

「幸代は、十歳のときから巫女だった。十歳の少女にできるものを、あんたはできないと?」

「うう、で、でも……」

 正直、自信がない。現状を受け入れるだけでも一苦労している私に、巫女なんかできるものか。頭を抱え込んでしまう。