目が、逸らせなくなる。

 それが恐怖からなのか、はたまた別の感情なのかは、わからない。

「花乃はここに住むんだろう? ちょうどいいじゃないか。若い娘の独り暮らしは物騒だし、男がいたら安心だろう?」

 けれど、見知らぬ男性との共同生活は、かなり抵抗がある。お風呂上がりや寝起きを見られたくない。

 もちづき君の提案に、戸惑ったのは私だけではなかった。
 つごもりさんは涙目になり、良夜さんは露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。

 祖母と意気投合し暮らしていたのに、突然私という異分子が飛び込んできたら、嫌悪感を抱くのは普通のことだろう。

「少し、考えさせてください」

「いや、ダメだね。今、決めて」

「それは、ちょっと……」

 立場的に私のほうが強いはずなのに、なぜもちづき君のほうが偉そうなのか。
 私には出て行ってほしいと望む権利が、あるはずだ。
 
 けれど、彼らは祖母が亡くなったあとの家を、守ってくれていた。
 この、ぬか漬けだってそうだろう。良夜さんがぬか床を毎日混ぜていなかったら、今頃ダメになっていた。

 部屋は誇り臭さなどないし、先ほど一瞬見た台所もきれいだった。祖母の家を丁重に扱ってくれている彼らを、無下に扱えるわけがない。

 祖母が契約を結んだ相手だ。悪い人達でもないのだろう。先ほど見た契約書だって、祖母が損をしないよう丁寧に優しく作られていた。

「さあ、花乃。どうする?」

「私は――」

 ただただ、コクンと頷いた。もちづき君はそれを、契約完了と見なしたようだ。 

 契約を交わしたあとで、ふと思う。彼らは、いったい何者なのかと。

 つごもりさんと良夜さんは、もちづき君に仕えている、という雰囲気だった。
 良夜さんはともかくとして、つごもりさんは名前なのか苗字なのか、よくわからない。
 というか三人とも、全名は名乗っていない。

 もしかして、もちづき君は地主の息子とか? だったら、大人ふたりが付いているのも、大人びた様子なのも、納得できるけれど。

 いつの間にか、外は太陽が沈みつつある。まだひんやりと寒いので、日没も早いのだろう。

「よかった、間に合って」

「間に合って?」

 顔を上げた瞬間、もちづき君の目が金色に光った。

「え!?」

 望月君だけではない。つごもりさんと良夜さんの目も、光っている。

「なっ、ちょっ――!?」