祖母が亡くなってから、誰も世話をしていなかったはずだ。それなのに、味は変わらずにある。
「それは、良夜が毎日せっせとぬか床を混ぜてくれたんだよ」
「良夜さん、が?」
「幸代さんに頼まれていたから、仕方なく、です」
「そう、だったのですね。ありがとうございます」
深々と頭を下げると、もちづき君が笑い出す。
「あの、何が、面白いのでしょうか?」
「だってあんた、見ず知らずの者達に、お礼を言うなんて、脳天気だなと思って」
指摘されて、ハッとなる。なぜ、彼らがここにいて、カフェを開いているのかは、最大の疑問であった。ぬか床について、お礼を言っている場合ではない。
「あなた達は、祖母の知り合い、なのでしょうか?」
「そうだね。僕とつごもり、良夜は、幸代の願いを叶えるために、ここにいる」
祖母は彼らを信用して家を任せた、ということでいいのだろうか? まだ、いきなりすぎて話の半分も受け入れられないけれど……。
「花乃、一応聞いておくけれど、あんたは、何をするためにここに来たんだい?」
「私は――祖母の、大切なものを守るために、来ました」
「遺産整理?」
「いいえ、ここに誰かが住み続けないと、家が取り壊される、という話を父から聞きまして」
「ああ、そういうことだったのか」
「あの、カフェのことは、父の許可は取っていないんですよね?」
「みたいだね。僕達が契約を交わしたのは、幸代だ」
つごもりさんが、書類を持ってくる。そこには、祖母ともちづき君達の間で交わされた契約が書かれていた。
内容はシンプルなものである。家に住む代わりに、この地を守るように、と。三回読んだが、祖母を騙すような内容は見つからない。まっとうな契約書である。
ただ、期限や契約主が死亡した場合については書かれていなかった。
「祖母は亡くなってしまったのですが」
「だったら、あんたが契約主になるといい」
「え?」
「幸代も話していたんだ。もしも、死んでしまったら、あとのことは跡取りに任せると。幸代の孫は、花乃だけだろう?」
「え、ええ。まあ……」
祖父は若くして、儚くなった。そのため、父はひとりっ子だったのだ。
「だったら、その跡取りは花乃になる」
もちづき君は少年とは思えない艶やかな笑みを浮かべていた。ゾクッと、肌が粟立つ。
「それは、良夜が毎日せっせとぬか床を混ぜてくれたんだよ」
「良夜さん、が?」
「幸代さんに頼まれていたから、仕方なく、です」
「そう、だったのですね。ありがとうございます」
深々と頭を下げると、もちづき君が笑い出す。
「あの、何が、面白いのでしょうか?」
「だってあんた、見ず知らずの者達に、お礼を言うなんて、脳天気だなと思って」
指摘されて、ハッとなる。なぜ、彼らがここにいて、カフェを開いているのかは、最大の疑問であった。ぬか床について、お礼を言っている場合ではない。
「あなた達は、祖母の知り合い、なのでしょうか?」
「そうだね。僕とつごもり、良夜は、幸代の願いを叶えるために、ここにいる」
祖母は彼らを信用して家を任せた、ということでいいのだろうか? まだ、いきなりすぎて話の半分も受け入れられないけれど……。
「花乃、一応聞いておくけれど、あんたは、何をするためにここに来たんだい?」
「私は――祖母の、大切なものを守るために、来ました」
「遺産整理?」
「いいえ、ここに誰かが住み続けないと、家が取り壊される、という話を父から聞きまして」
「ああ、そういうことだったのか」
「あの、カフェのことは、父の許可は取っていないんですよね?」
「みたいだね。僕達が契約を交わしたのは、幸代だ」
つごもりさんが、書類を持ってくる。そこには、祖母ともちづき君達の間で交わされた契約が書かれていた。
内容はシンプルなものである。家に住む代わりに、この地を守るように、と。三回読んだが、祖母を騙すような内容は見つからない。まっとうな契約書である。
ただ、期限や契約主が死亡した場合については書かれていなかった。
「祖母は亡くなってしまったのですが」
「だったら、あんたが契約主になるといい」
「え?」
「幸代も話していたんだ。もしも、死んでしまったら、あとのことは跡取りに任せると。幸代の孫は、花乃だけだろう?」
「え、ええ。まあ……」
祖父は若くして、儚くなった。そのため、父はひとりっ子だったのだ。
「だったら、その跡取りは花乃になる」
もちづき君は少年とは思えない艶やかな笑みを浮かべていた。ゾクッと、肌が粟立つ。