狛犬カフェで悩み事、祓います

 三月下旬、祖母のお葬式の帰りに、私は飲酒運転をしていた車にはねられ、大怪我を負った。

 幸いにも、命は取り留め、怪我も完治した。

 しかし、三月下旬から七月下旬の四ヶ月間、意識が戻らなかったらしい。
 事故のさい頭を強く打っていたようで、遷延(せんえん)性意識障害に陥っていたのだとか。目覚める可能性は極めて低かったようで、奇跡だとお医者さんは話していた。

 意識はなんだかフワフワしているし、体は油が切れたゼンマイ仕掛けの人形のように、ぎこちない動きしかできない。
 これは現実なのだと、疑問に思うレベルだった。

 ただ、のんびりもしていられない。日常生活を送れるように、リハビリが始まった。

 意識を失っている間、不思議な夢を見ていた。

 祖母とお参りしていた神社の神様と神使と一緒に、カフェを開いていたのだ。
 てんやわんやの毎日だったが、とても楽しかったような気がする。

 なんだか記憶が曖昧で、はっきり思い出せるわけではないが。

 強く印象に残っているのは、鷹司さんという地主さんだ。人気俳優もびっくりするようなイケメンで、キャラもやたら濃い。漫画のキャラクターみたいな、現実離れした人だったのだ。

 あんな人が、いるわけがない。そう思っていたのに――鷹司と名乗る男性が真っ赤な薔薇の花束を背負って現れたのだ。

「百本の薔薇は、重すぎる!!」

 意味不明なことを叫び、サイドテーブルに薔薇の花束を置いた。

「見舞いの花なのに、若い女性にとか、特別な感じでと説明したら、なぜか百本の薔薇を用意しやがった。たぶん、求婚か何かと勘違いしたんだ」

「は、はあ」