狛犬カフェで悩み事、祓います

「私、ずっと信じていたんです。土砂崩れでなくなった神社を復興させるために、神様と狛犬が、この家にやってきたのだと」

「なんだ、それは?」

 信じてもらえるかわからないが、鷹司さんに説明してみる。

 健啖家で自信家の美少年、もちづき君のこと。
 控えめだけれど頑張り屋で意志が強いつごもりさんのこと。
 言葉は辛辣だけれど行動や心は温かい良夜さんのこと。

 皆、人ではない。神様と、神使である。

 話していて、あまりにも現実離れしている話だと思った。

 もしかしたら彼らは、私はいると思い込んでいた幻だったのか。今となっては、そんなことすら考えてしまう。

「すみません、彼らは、最初からいなかったのかも――」

「いいや、いた。人ではないと感じていたが、確かに存在していた」

「そう、でしたか。よかった」

 ポロリと、一筋の涙が零れてしまう。短い間だったが、家族のように暮らしていたのだ。

 それが幻だったとは、認めたくなかった。鷹司さんが存在を証明してくれて、よかったと心から思う。

「それにしても、妙だな。土砂崩れで神社がなくなったと言っていたが、山で土砂崩れなど起きていないはず」

「え?」

「そんな報告は、上がっていない」

 でも、もちづき君が言っていたのだ。神社は土砂に巻き込まれ、なくなってしまった。祖母が新しい地主に修繕を訴えたが、取り合ってもらえなかったと。

「祖母が、話をしていたはずですが」

「いいや、聞いていない。もしも本当に、山奥の神社が土砂に呑み込まれていたら、即座に修繕していただろう。土地神を、おろそかにするなんてありえないから」

「そう、ですよね」

 私の聞き違いだったか。
 それならば、どうしてもちづき君はここにいたのだろうか。

「神社を、見に行くか?」

「え?」

「気が気でないだろう? もしかしたら、満月大神と狛犬は、神社に戻っているだけかもしれない」

「――あ!」

 そうだ。神社が土砂に呑み込まれていないとしたら、戻っている可能性も高い。

「行き、たいです。行って、話を、したい」

 聞きたいことは山ほどあるけれど、まずは、お礼を言いたい。祖母の死を目の当たりにして、意気消沈していた私を支えてくれたのは、紛れもなく彼らだったから。

「だったら、行くぞ」

「え、今から、ですか?」

「朝になったら、消えているかもしれないだろうが」