狛犬カフェで悩み事、祓います

「言うな! 言葉にしたら、現実のものになってしまう」

 “言霊”だと、鷹司さんは付け加えた。口にした言葉が、真実となってしまう現象だろう。

「いいか、落ち着け」

「鷹司さんは、落ち着いていますね」

「私は、霊感があると話していただろうが。そのせいで、子ども時代はいろいろあった。だから、ちょっとやそっとのことでは、驚かない」

 そういえば、悪いものを感じ取るとか、そういう話を聞いていたような気がする。
 私についても、「正直、いい状態ではないだろう」と発言していた。

「鷹司さんが言っていたいい状態ではないというのに、これは、関係しているのでしょうか?」

「そう……だな。あのとき感じたよくないものが、強くなっているような気がする」

 私はいったいどうしてしまったのか。両手で顔を覆った瞬間、ドン!!と何か大きなものにぶつかった記憶が甦る。
 その場に立っていられず、膝を突いた。

「おい! 大丈夫か?」

「私っ……私は――」

 たった今、鮮明に記憶を取り戻した。私は、祖母の葬式のあと、事故に遭った。
 飲酒運転をしていた車が、私が歩いていたところに突っ込んできたのだ。

 その記憶と、ここ最近見ていた悪夢が結びつく。

 何かにぶつかって、私という存在が散り散りになっていくというのは、事故に遭った記憶を抽象的に見ていたのだろう。

 鷹司さんは、その場に座り込んだ私の肩を支える。

「あの、私――」

「言わなくていい。わかっている」

 まずは落ち着くようにと、静かに、優しい声で囁かれる。

 息を大きく吸い込んで、吐いた。ざわざわと落ち着かない心を、どうにか鎮めさせる。

「落ち着いたか?」

「はい」

 ひとまず、居間に移動する。

「あ、お茶でも――」

「いいから、そこに座るんだ」

「はい」

 不思議なものだ。体は薄くなり、足は消えた。それなのに私は物に触れ、緊張で高鳴る心を感じている。

「私、ずっと、存在感が薄いから、驚かれるものと思っていました」

「皆、そこにいなかった者が、突然現れたから、驚いていたのだろう」

 つまり、私は、“生きていない”ということになる。

 きっと、事故に遭った日に、死んでいたのだろう。

「でも、どうして私は、このような状態だったのでしょうか?」

「知らん。そもそも、生きていない存在(もの)の定義を勝手に決めたのは、人だからな」

「そ、そうですね」

 幽霊は透けていて、実体がないということを考えたのは人だ。真実とは限らない。
 私のように、実体がある存在がいても、おかしくはないのだ。