「自営業というのは、アクセサリー作りで、毎週イベントに参加したり、材料を買い集めたり、発送したりしていたんだけれど……ここ、コンビニもなければ、郵便局も宅配業者の支店もないよね?」

「え、ええ。荷物は、駄菓子屋から送れますが」

「もしかして、ATMすらない?」

「ない、ですね」

 徳岡さんは、再び頭を抱え込んでしまう。そして、何かに気付いたのか、ハッと肩を震わせていた。

「こ、ここ、もしかして、限界集落!?」

 その問いかけに、明後日の方向を見てしまう。
 限界集落というのは人口の半数が高齢者となって、町の維持が難しくなるような地域を呼ぶ名称である。

 きちんと数えたデータは手元にないものの、町の人口のほとんどは高齢者だ。若者や子どもは、ほとんど見かけない。

 今までずっと気付いていなかったけれど、ここの町は限界集落なのだろう。

「いや、やっぱり無理! 本当に無理! 絶対に無理無理!」

 徳岡さんは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。と、ここでつごもりさんがかき氷とお茶を持ってきてくれた。

「わ、イケメンがおいしそうなかき氷を持ってきてくれた!」

 ちょっとだけ、表情が明るくなる。イケメンは、心を和ませてくれる。以前、葵お婆ちゃんのお孫さんも力説していた。

 つごもりさんは、最近覚えた“営業スマイル”を、ほんの淡く浮かべる。

 これは、本当に可愛い。毎日一緒に働いている私ですら、くらりとくるくらいだ。

 さすが、狛犬である。いい働きをしてくれる。

「ありがとう。なんか、元気でた」

 徳岡さんはそう言って、かき氷をスプーンで掬って食べる。

「わー、すっごくおいしー! メロンの甘さが、ガツンとくる!」

 佐々木果樹園のビニールハウスで作られたメロンである。
 切り刻んだメロンに砂糖、レモン汁を加え、コトコト煮込んだだけのシンプルなソースだ。

「パインのほうも、甘くて爽やか! おいしい!」

 パイナップルソースも、トロトロになるまで煮込んだ自信作だ。おいしそうに食べてくれるので、こちらまで嬉しくなる。
 かき氷のおかげで、クールダウンしたのだろうか。顔色もよくなった。

「でも、贅沢ね。メロンのかき氷なんて」

「果樹園があって、いろんな果物を売ってくれるんです。どれも甘くて、おいしいですよ」