クーラーで体が冷えてしまったので、ホットミルクでも飲んで横になろうと考えていたのだ。

「満月大神も、ホットミルクを飲まれますか?」

「まあ、そうだね」

 マグカップにミルクを注ぎ、レンジで二分加熱する。それに、スプーンで蜂蜜を掬って入れ、くるくる混ぜる。仕上げに、シナモンをちょこっとだけ振りかけたら“蜂蜜シナモンホットミルク”の完成だ。

 居間に戻ると、犬の姿になったつごもり君と良夜さんがいた。クーラーの風が当たる場所に、転がっている。

 満月大神がやってきた瞬間姿勢を正したが、次の瞬間にはぐったりしている。

 ふかふかモフモフの毛に包まれた彼らは、夏の暑さに弱い。毛足が長い良夜さんをサマーカットしたほうがいいのではないか、と提案した。

 だが、「昼間モヒカンみたいな髪型になるから」と断られてしまう。

 モヒカンの店員がいたら、お爺ちゃん、お婆ちゃんのお客様は驚いてしまうだろう。

 満月大神に「楽にしてもいい」と言われた途端、つごもりさんと良夜さんは横たわる。こうして見たら、狛犬ではなく完全に犬だ。

 クーラーは消さずに、そのままでいよう。私には、ホットミルクがあるから。満月大神とふたりでホットミルクを飲む。カップを持つ手が、じわじわ温かくなった。

 静かな中で飲んでいたが、満月大神はふいに話しかけてくる。

「花乃、最近、よく眠れていないだろう?」

「ど、どうして、そう思うのですか?」

「目の下に、濃いクマがあるから」

「気付いていませんでした」

 何が眠れない原因があるのではないか。その問いかけられた瞬間、ここ最近の悪夢を思い出してゾッとしてしまう。

「心当たりがあるみたいだね?」

「え、ええ。実は、最近、夢見が悪くて」

「そうか。限界なのかもしれないな」

「限界、というのはどういうことですか?」

「花乃が自分で気付かなければ、意味がない」

「そう、ですか」

 あまり寝ていないので、体が休まっていないのだろうか。
 良夜さんとつごもりさんも同じように働いているけれど、彼らは人ではない。同じように動けると、思ってはいけないのだろう。

「明日営業したら、次の日は休みにします」

「そうだね。休ませたほうがいい。あんたはきっと、何かがすり減っているんだ。このままだと、危険だよ」

「はい。ご忠告、痛み入ります」