「でも、都会の人から見たら、五右衛門風呂は珍しいんじゃないですかね」

「言われてみたら、確かに珍しい。しかし残念だ。古い風呂は取り外して、オール電化にしてしまった」

「まあ、鷹司さんがその家で暮らすのならば、オール電化でいいと思います」

 薪で沸かすお風呂は大変不便だ。雨の日は傘を差しながら、夏の日は暑さに汗を垂らし、雪の日は寒さに耐えて、お湯を沸かさなければならない。お風呂の用意がスイッチひとつで済むのならば、どれだけ助かるだろうか。

「しかし、五右衛門風呂の珍しさには、気付かなかった。君と話をしていると、勉強になる」

「庶民的感覚をお話しているだけですが」

「貴重な意見だ。自信を持て」

「お役に立てて、何よりでした」

 そんな風に返すと、鷹司さんは尊大な様子で頷いた。

「君は、短い間で、ずいぶんと変わったな」

「そうですか?」

「初めて出会ったときは、おどおどしていたような気がする」

「ああ……それは、そうかもしれないです」

 仕事を辞め、もちづき君やつごもりさん、良夜さんと出会い、狛犬カフェで働くこととなった。
 毎日毎日、私が作るお菓子を食べて、おいしいと言ってくれる。それが、自信に繋がったのだろう。

「しかし、“根本的な問題”は、解決していないようだな」

「根本的な問題、ですか?」

「ああ。覚えているだろうか? 私が、言ったことを」

 そういえば、何か言われていた気がする。

 ――君は、正直、いい状態ではないだろう。

「まだ、あのときの状況から、抜け出せていないのですね?」

「ふむ、そうだな。住職に連絡は、していないようだな」

「はい。特に、変わったことはなかったので」

 あるといえばあるが、夢見が悪い程度だ。深く、気にするものではない。
 今は、自分のことよりも、町について考えたい。

「他に、何か進展はあったのですか?」

「まあ、いくつかないこともないが」

「教えてください」

 町はどんどん変わっている。私も、変わりつつあった。
 きっと、物事はいい方向に行くだろう。

 夜――三日月がぽっかりと夜空に浮かぶ。

 明日の仕込みを終えて、手持ち無沙汰でいたら、もちづき君と廊下でばったり出会う。

「あ、満月大神、お休みになるのですか?」

「いや、まだ寝ない。花乃は?」

「私も、もうちょっとだけ」