「今日は氷か。それと、キンキンに冷えたアイスティーを用意してくれ」

 本日のメニューは、かき氷と温かい緑茶だ。冷たいものばかりだと、お腹を壊す可能性があるからだ。

「かき氷だけでも、体は冷えますよ」

「いいや、私は今、アイスティーが猛烈に飲みたい!」

「歩み寄り……」

 お店の奥から、声が聞こえる。つごもりさんだ。部屋の奥に繋がる扉から、顔を半分だけ覗かせて私達を見つめている。

「む。そうだな。歩み寄りは、大事だ。わかった。温かい紅茶でいい」

 結局、紅茶は飲むようだ。

「ティーパックしかないのですが、大丈夫ですか?」

「なんだ、ティーパックとは?」

「インスタントの紅茶です。紙のパックに入っていて、お湯を注ぐだけで紅茶が飲めるのですが」

「へえ、そんなものがあるんだな」

 さすが、地主の息子と言えばいいのか。ティーパックを知らないだなんて。
 きっと、紅茶が飲みたくなったら、お手伝いさんが香り高い茶葉からおいしいものを淹れてくれるのだろう。

 本当に、住む世界が違う。

「茶葉から淹れる紅茶に比べて、香りや味は落ちると思いますが」

「いや、いい。インスタントの紅茶とやらは、どのような味がするのか、飲んでみたい」

「かしこまりました。かき氷は、イチゴとマンゴーがありますが」

「では、イチゴとマンゴーを、半分ずつ作ってくれ」

 また、勝手にメニューを作っていた。しかし、かき氷のハーフハーフはいいかもしれない。お客さんも、ずいぶんと迷っているように見えたし。

 かき氷は良夜さんが、紅茶はつごもりさんが用意してくれるようだ。私は、鷹司さんの相手をしておくようにと頼まれる。

「そういえば――」

「はい?」

「先日この町の空き家を買い、ざっとリフォームをして、今日から住み始めた」

「え?」

「今まで東京から通っていたんだがな。効率が悪いから、家を買ったんだ」

「思い切ったことをしたのですね」

「まあな。民泊の、データも集めようと思っているんだ」

「ああ、なるほど。そういうわけですか」

 駅の近くにある、築七十年の家を買ったらしい。

「一年前まで人が住んでいたんだが、薪で風呂を焚くような家だったんだ」

「うちもですよ」

「そうなのか!?」

「この辺り一帯は、五右衛門風呂です」

 そんな、目をまんまるにして驚かなくても。