まさか、鍵を開け、扉を開けて入ってきて尚、存在感が薄かったのか。
 ただふつうにやってきて席に座っただけなのに、驚かれたのは一度や二度ではない。自分でも不思議に思うほど、気配がないのだ。

 だから私は、“座敷わらし”と呼ばれてしまうのだろう。

 青年は私が生きている人間か確認するように、問いかけてくる。

「あなたは、誰ですか?」

 それは、私も聞きたい。

 年頃は二十歳前後だろうか。血管が透けそうなほどの白い肌に、日本人離れした美貌の青年である。
 あまりにも美しすぎて、恐ろしくなってしまった。

 勝手口の扉を勢いよく閉め、再び玄関口へと走る。
 あの、“和風カフェ・狛犬”の看板は見間違いでありますようにと、願いながら。

 残念ながら、狛犬カフェの看板も、営業中の札も見間違いではなかった。
 いったい、どういうことなのだろうか。もしかして、祖母が誰かと契約して、カフェを開いていたのだろうか。

 でも、半年前に遊びに行ったときは、普通の民家だった。それに、祖母もカフェについて何も話していなかった。

 それなのに、突然カフェが開いているなんて……!
 どうしてこうなったのだと、頭を抱えてしまう。

 もしかしたら祖母の訃報を聞き、地主がカフェを始めたというのだろうか。

 でも、この家の所有者は父である。父に許可を取らずに、カフェなんか開けるわけがない。
 脳裏に、父の姿が浮かぶ。昔から口数が少なくて、不器用で、無愛想だった。

 そんな父が、突然カブトムシをもらってきた日があったのを思い出す。あれは、小学二年生の夏の話だったか。

 喜ぶと思ったのか定かではないが、私は虫が大の苦手だった。怖いと泣き叫び、父が大嫌いになった。結局カブトムシは、他の人が引き取る結果となった。

 他にも、いきなり旅行に連れて行かれたり、会社のバーベキューに参加させられたりと、父のやることなすことサプライズばかりだったような気がする。

 もしかしてこのカフェも、私を驚かせようとして開いたとか?

 そんな憶測が浮かんだが、いやいやないないと首を横に振る。祖母と私の夢を、父が知るわけがない。

 祖母の家の前で呆然としていたら、誰かが玄関の引き戸を開けた。

 背が高く、二十歳半ばくらいの整った顔の男性だった。黒い髪に青い瞳を持ち、繊細そうな雰囲気をかもしだしている。