「電話……」
取り出すと、『お母さん』と表示されたディスプレイ。
嫌な予感が確信に変わるのが怖くて、呆然と手のひらの携帯電話を見つめる。
少しすると電話が止んで、まだ帰らないの?とメールが届いた。
そのままメールボックスの中をスクロールしていく。
さっきまで私だったはずの、この時代の私が送ったメールがそこにはある。
なにがどうなっているのか、わからない。
(とりあえず、帰らなきゃ……)
漠然とそう思った。
状況も何もかも飲み込めないけれど、まだ目が覚めないのなら、私はこの時代の私として行動をするべきだろう。
(家への道、覚えてるかな)
些か不安になりつつも、未だに信じられない思いで足を踏み出す。
校舎へと続くドアノブを握ると、ひんやりとした感覚が手のひらに伝わってきて、まるで私に夢ではないのだと言い聞かせているようだった。
(こういうのって一晩たてば元どおりとかいうし。元どおりになったら私は死ぬんだけど……とりあえずなるようになるしかないか)
運命に逆らったところでどうにもならないことは、身にしみてわかっている。
どうにもならないのなら、なるようになるしかない。
ここ最近は薄味の病院食ばかりだったし、最後の晩餐にお母さんの手料理が食べられるとでも思っておけばいい。
(そうそう、前向きにね)
階段を二段飛ばしで駆け下りながら、私はちょっとだけポジティブな気持ちで母の待つ自宅へと急いだ。