灯山への後悔はある。
けれど、その後悔の行き先がこの記憶だというのがわからない。

(でも、いま言わなきゃ、本当に機会がなくなる)

とはいえ、ここも私の記憶なのだから、自己満でしかないのだけど。

(どうせ記憶だ。どうにでもなれ)

「あのさ、灯山。好きだよ」
「……え?」

さすがの灯山も驚いたらしく、目が点になっている。

そして私も記憶とはいえ、やっぱり告白は恥ずかしい。
一気に体の奥から熱がせり上がってきて、頰が蒸気するのがわかる。

「あの、えっと、ほら、死んだらもう、言えなくなるから。後悔しないように、言っとこうと思って」
「……ははっ、あはは」

吹き出された。
珍しく破顔した灯山が、可笑しそうにお腹を抱える。

「好きなら、死ぬ方を止めない? おかしいよ、永井さん」
「あ、違うの。私が、死ぬから」
「え? 死ぬの、永井」

問いかけに迷う。
間違いなく私はこの後死ぬんだけど、17歳の私が死ぬわけではない。
いちいち灯山にここは走馬灯ですって説明するのも変だし、適当に答えを探す。

「いますぐじゃないけど、いつ死ぬかなんてわからないし。それなら善は急げというか」
「それには納得。いつ死ぬかわからない俺たちは、後悔をしない言葉を常に選ぶべきだ」

笑顔から一変、真面目な顔になった灯山が呟く。
何か心に響くものがあったらしい。

「それより、冷えてきた。そろそろ帰ろうか」
「え? 告白の返事は?」

立ち上がった灯山が、含みのある瞳で私を見下ろした。

「お断りするよ。明日には俺は死ねるかもしれない。そんな不安定な状態で、人と付き合うのは後悔しそうだから」
「それは……残念」
「でも永井には俄然、興味が湧いた」

差し出された手を握ると、グッと引っ張られる。
冷えた手のひらは惜しむ暇もなく離され、灯山は私に背を向けた。

「俺が死ぬまで、仲良くしてよ」

返事は、できなかった。